八 …十一
「……お前がこんな目に遭ったのに、俺がのうのうと生きられるわけ……」
しぶしぶといった感じで口を開いた赤坂に、ゆいは顔を真っ赤にして「ばかじゃないの⁉」と一喝する。ゆいの勢いに押されて、しょぼん、と縮こまっている赤坂を見て、五条は、女は怒らせると怖いことを再確認した。
『そんなこと、わたしがほんとうにのぞんでいるとおもうの?』
ゆいの一言に、ハッとした表情を浮かべる赤坂。
『それを、お前の妹が望んでいないとしてもか』
つい先ほど、五条から聞いた言葉が赤坂の頭にフラッシュバックする。五条は、ゆいの気持ちをこの世界で察していた。そして、それを教えてくれようとしていたのだ。
あのまま五条が赤坂と接触していなければ、赤坂は引き留められることもなく、そのまま闇の中へ落ちてしまっていたかもしれない。
赤坂はゆっくりと、眉毛を下げて今にも泣きそうな表情で五条の方へと目線を向ける。
「俺を君の元へ誘導したのは君の妹だ。俺はただ俺の任務を果たしたまでだ」
だからそんな顔を向けるな、とでも言うように、五条はふいっと赤坂の視線から逃れるように顔を逸らす。
彼なりの照れ隠しなのだろうが、初対面の赤坂にはその真意は掴みづらい。
〈おにいちゃん、わたしのために、つらいおもいをしてくれてありがとう。ここまできてくれてありがとう。そんなにかぞくにおもわれて、わたしはしあわせものだよ。でも、まだおにいちゃんはこっちへきてはだめ。ほら、おにいちゃんをまっているひとが、あっちにもいるんだよ?〉
そうゆいが告げると、薄暗に徐々に光が差し込むように、赤坂の背後から光が漏れてきた。そしてそれと同時に、どこからか、赤坂の名を呼ぶ女性の声が聞こえてくる。
日の光に包み込まれるかのような、優しい声色。赤坂にはその声の主がすぐに分かったようで、ぱっと声が聞こえてくる背後へと顔を向ける。
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