八 …十

 当たり前のものが、ある日突然、己の元からなくなってしまった絶望感。

 赤坂はその絶望感に打ち勝てるほど、心が強くなかった。


「ごめん……何もしてやれなくて……。本当にごめん、ゆい」


 そのまま赤坂は顔を下へと向けて、ボロボロと大粒の涙を零し泣き崩れてしまった。


『そんなにあやまらないでよ、おにいちゃん』


 ゆいは、目の前で泣き崩れている赤坂の両肩に手を置き、下を向く赤坂を覗き込むように身を屈ませた。


『わたし、おにいちゃんがいてくれてよかったよ。ほら、おぼえてる?わたしがじゅっさいのとき、がっこうでともだちになかまはずれにされてたの。あのとき、おにいちゃんがそのぐるーぷのりーだーみたいなこに「おれのいもうとをいじめんじゃねぇ!」っていってくれたの。あのときおにいちゃん、ちょっとぐれててきんぱつだったから、みんなびびちゃっててさ。でも、あのときから「ゆいのあにきはこわい」ってみんなにおそれられて、いじめられることもなくなったんだよ?』


 思い出話に花を咲かせるゆいは、涙でグズグズの赤坂とは対照的にクスクスと小さく笑っている。そのゆいの様子を見て、赤坂はゆっくりと顔を上げた。


『ていうかおにいちゃん、このまましのうとおもってるでしょ』


 突然のゆいの言葉に、赤坂は肩をビクッと震わせる。

 どうやらゆいが言ったことが図星だったようで、赤坂はバツが悪そうにゆいの視線から目を逸らす。


『やっぱり!そんなのぜったいゆるさないんだから!』


 ゆいは、プンプンと怒るように「もー!」と言いながら赤坂の肩をバンバンと叩く。

 叩かれている赤坂は、何も言えずになされるがままの状態だ。

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