八 …九
まるで自分の見ている光景が信じられないというように、赤坂は首を横にゆっくりと振った。目には涙を浮かべ、自分の妹の姿形をしっかりと焼き付けようとしている。そんな赤坂とは裏腹に、ゆいは大声を上げた。
「おにいちゃんのばか‼」
ゆいの声が、精神世界へ響く。
すぐ横で大声を出された赤坂も、ゆいの迫力に身を縮こませていた。
「なんでこんな……、危うく人を殺すところだったんだから!」
目にいっぱいの涙を溜め、ゆいが赤坂に詰め寄る。
目の前で起きている状況をだんだんと受け入れた赤坂は、ゆいに向かって手を差し伸べた。
「受け入れられなかったんだ。お前が死んだっていう事実が」
赤坂は、ゆいが亡くなって一週間、葬儀などの手続きを終え、母親と離れて暮らす学生寮へ戻ってきた。しかし、どうしても妹を助けてやれなかった自分が許せずに寮を抜け出し、近くの神社へと足を運んだ。
それが、三条神社だった。
「神様、どうして妹を……ゆいをこんな目に合わせたんだ……?」
勿論、神は赤坂の問いに答えることはない。
が、その問いかけに答えるものがいた。それが、赤坂に憑りついた玉井という憑物だった。
玉井は自分と同じ体験をした赤坂に目を付け、そして体を乗っ取った。自分の願望を叶えるために、赤坂の心を利用したのだ。
しかし、その玉井もまた、何者かに言葉巧みに操られ、利用されていた。
「寮に入って、母さんやゆいと話す機会が減った。そりゃ、たまに帰省はしていたけど、俺は地元の奴らと遊んで、ろくにゆいと話すこともなかった」
赤坂は、家族との時間を取らなかった自分を悔いているのだ。家族という存在はなくならない。居て当たり前。そんな赤坂の家族に対する根拠もない確信が、今回の悲劇に繋がってしまった。
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