八 …八
また、ゆいの目尻にジワリと涙が溜まってゆく。
五条はゆいの隣に腰を下ろし、ポン、とゆいの頭に手を乗せた。
「大丈夫だ。ここでは、人間の心臓は動かない。……ほら」
そう言うと、五条はゆいの手を自身の胸へと当てた。
ゆいは突然の事に驚き、一瞬顔を赤らめ息を詰まらせた。高校生の女の子が見知らぬ男の胸板に触れているのだ。その反応も無理はない。
が、五条の鼓動もリズムを刻んでいないことをその手で確認して、安心したかのように静かに息を吐いた。
「現世と黄泉を繋ぐ狭間のこの精神世界では、命の選別が行われる。生きるか死ぬか、天国か地獄か。ここはグレーゾーンだから、『生』を決断された場合、直ぐに蘇生できるようになっているんだ。今の赤坂は『仮死状態』とでも言うかな」
五条の言葉を、半分も理解できていなかったのだろう。ゆいは難しそうな表情を浮かべ首を傾げた。
「ま、簡単にいえば君の兄貴はこれからも現世で生き続ける」
そう五条が言ったことによって、ゆいの表情はパッと明るくなる。その時、気絶していた赤坂が小さく呻きを上げた。
「う……」
まだ意識が朦朧としているのか、起き上がろうとはせずに、頭に手を当て眉間をゆがませている。
『おにいちゃん!』
咄嗟にゆいが赤坂に向かって叫ぶ。
彼女の声が赤坂の脳を揺さぶったのか、赤坂は勢いよく眼を開き、がばりと上体を起こした。
「ゆ、い?」
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