八 …七


『もたせた……しんぐ……』


「は……持たせた⁉」


 しんぐ、とは、三種の神器の事だろうか。その一つを、十社に属する巫女に持たせた、という訳か。


「みこを……さがせ……。さもなくば、あのひとが……」


 それっきり、玉井が言葉を発することはなかった。人としての原型を保っていた玉井の姿が、足の指先から少しずつ、塵屑のように消えてゆく。

 憑物になってしまった人間の魂は、黄泉の国で再生のための施しを受けることなく消えてゆく。

 もう二度と、現世に生まれ変わることは叶わない。

 玉井を取り囲んでいた黒い渦は、玉井の身体が消滅したことを見届けて、静かに緩風になって消えてしまった。




 五条は、玉井の魂を見送った後、気を失っている赤坂の元へと戻った。

 未だ赤坂は気を失ったまま。しかし、その傍らには、身体が半透明の少女の姿があった。恐らく、赤坂正人の妹だろう。五条をここへ導いたのも彼女だ。

 少女は横たわっている赤坂のすぐそばで、グスグスと泣きべそをかいている。


「君、名前は?」


 五条は、穏やかな口調で問いかける。

 涙で濡れた目元を手でぬぐい、五条の瞳を真っすぐに見つめる少女。優し気なその目元は、数日前に調査資料で見た写真の中の赤坂正人とよく似ていた。

 先程までの嗚咽からは想像も出来ないほどの凛とした口調で、少女は五条に語り返す。


『あかさかゆい。ねぇ、おにいちゃんはちゃんと帰れる?』


 今にも消え入りそうな声で、ゆいは呟く。

 ゆいの両手は、赤坂の心臓の部分を抑えていた。恐らく、赤坂の鼓動を確認していたのだろう。


『うごいてないの……』

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