八 …五
『ゆるせなかった……。いもうとは、おれたあばらぼねがしんぞうにつきささってそくしだったのに、はんにんはいまものうのうといきている』
言葉に若干の怒気が含まれる。脱力している玉井の身体から負の感情が漏れ出すように、黒い影がじりじりと浮かび上がってくる。それに伴って、五条の頭は重しがついたようにズシン、と重くなった。
「……落ち着いて。怒りに身を任せてはいけない」
五条は、諭すようにゆっくりと玉井に言い聞かせる。浮かびあがってきた影がピタリと収まり、やがて収縮してゆく。
影が収まりきった後、玉井はまたぽつりぽつりと語り始めた。
『それからおれは、あるおとこにであった』
「ある男?」
『くろいすーつをきた、のうめんのようなおとこだった。じぶんとおなじようなきょうぐうのにんげんにとりついて、あるにんむをすいこうすれば、いもうとにあわせてくれるといった』
だから、自分自身で死を選び、憑物になってしまったのか……。
死ねば、黄泉の国へ行く。確かにそこに行けば、妹に会うことは可能だろう。しかし、通常通りの死を迎えれば、の話だ。人間は生まれながらに運命によって死に方が決められている。玉井の妹は、事故に遭って死ぬことが運命だったのだ。しかし、玉井本人はそうではない。自らの意思で死を選び、運命に背いた死に方をしてしまった。そして、憑物となり生者に関与してしまったのだ。
妹と同じ所へは行けずに、やがて消滅する。
「ある任務……とは?」
五条は玉井に問いただす。だらんと垂れ下がっていた玉井の頭が、その問いかけに答えるようにゆっくりと上を向く。
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