八 …一

 意識を取り戻したときには、暗い道に一人、ポツンと佇んでいた。

 記憶が混在することなく、ここがどこだかすぐに分かった。赤坂の精神世界だ。まるで真っ暗な夜道に呑まれるかのような空間だ。

 冷静に状況を把握しながら、何か頼りになるものはないかと辺りを見渡す。

 真っ暗闇の中、向かって左の方角に微かに明かりが灯っていた。

 五条は、明かりが射す方に向かって真っすぐに歩いてゆく。


〈……ダメ〉


 誰かの声に、歩みを止めた。若い女の声だ。

 立ち止まって目を瞑る。

 もう一度、今度は決して逃さないように、神経を集中させて頭に流れてくる声に意識を向ける。


〈こっちへ来てはダメ!〉


 今度ははっきりと聞こえた。

 しかし、その声は五条へと向けられたものではないようだ。

 だとしたら————。


 五条は目を開き、踵を返して光の方角と逆へ足を進めた。

 光から遠ざかる度、闇の中でうごめいていた影が、じっとりと身体をまとわりつくような不愉快さを覚えた。不愉快な感情を隠す気もさらさらなく、眉間に皺を寄せるながら歩く。

 およそ五百メートル先まで来た辺りで、見覚えのある背中を視界に捉えた。

 

 赤坂だ。

 身を丸く屈め、手で頭を押さえて呻いている。

 赤坂のすぐ後ろまで寄るも、赤坂は身を動かす気配がない。

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