七 …四
「……早く解放してやれ、って」
『解放』。
その言葉を本当の意味で理解できているのは、恐らく五条だけだろう。だから、こんなに悲し気な表情を浮かべている。
それは、赤坂に憑いている【憑物】を取り除いてあげることなのか。それとも、そもそも『ナニカ』に開放しなければならない問題があるのか。
——どちらにしても、この後に分かることだ。
乙女はそう思いながら、再び五条の背を追って歩いた。ふと、本堂へ向かう途中にある、小さな神社を視界に捉える。その神社の前で、乙女は一度立ち止まった。
まるでその場所だけ神気が感じられないような、虚へ導かれているような気さえする神社。
五条神社の摂末社だ。しかし、本殿と並んで観光名所には指定されているものの、人は一切寄りついた形跡はない。
乙女はその様子を見て、唇を静かにきゅっと結んだあと、再び本堂の方へ向かって歩き出した。
「ここで、待っててくれ」
五条は本堂へ入り、丁度本殿が見える位置に乙女と赤坂を誘導する。
そしてそのまま五条本人は、元来た道へと踵を引き返して早足にどこかへ行ってしまった。
乙女は、こちらの事情を何も話さないままに連れてきてしまった赤坂の様子を伺おうとそちらへ目を映す。
赤坂は見入ったように、本殿がある方をひたすら見つめていた。
一般人が本殿を拝むことが出来る機会はそう多くはない。ただ単に物珍しいからまじまじと見つめているのか、はたまた彼の中にいる【憑物】がそうさせているのか。
(五条のように力があれば……)
乙女の頭にそんな考えが浮かぶものの、静かに首を振った。
五条は、そんな自分を毛嫌いしている。この感情は、絶対に五条に向けてはならない。ただでさえ感が鋭い子だ。他人の思いを、簡単にその身に背負ってしまう。
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