五 …一
はるか遠くから聞こえてくる、聞きなれた太古の音。
その音を合図に、神殿の方からは笛や琴の音も、風に乗ってやってくる。本館に整備されている教員用の休憩室で自動販売機からコーヒーを取り出しながら、窓から神殿の方向を見る。片手に持ったコーヒー缶の蓋をプシュッと開け、一口、乾いた喉に含ませる。苦味が口の中全体に広がった後、そのまま喉を通って体を満たしていく。
「始まったねぇ」
ふいに漏れた声が、空を回って消えてゆく。
これから起こるであろう“悲劇”に身を焦がし、自然と口元が緩むのが分かる。静かに口元に手のひらを当て、周りに誰もいないことを確認して、再びニヤリと笑う。
「今日から始まる。 いよいよだ……」
雅楽の音は、今日も美しい。
美しい音色に身を委ね、男性はまた、神殿のある方角に目を向けて、コーヒーを一口喉に流し込んだ。
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