四 …一
無事、校内道中を終え、神殿へと帰って来る。
動くたびにシャリン、シャリンと鈴の音が鳴る簪を頭から下ろし、ふぅ、と息をつく。着替えを手伝ってくれる春香の表情を見ていると、心なしか楽しそうだった。
「なんだか、楽しそうだね」
簪を神殿の定位置に戻してくれている春香に、後ろから声を掛ける。その私の問いかけに、一瞬キョトン、とした顔を向けた後、こちらも気が抜けるほどへにゃりとした笑顔を向けた。
「だって……私初めて巫女舞の衣装を見ましたし……さっきの校内道中、すっごく素敵でした!まるで束の間のひと時、神が舞い降りたかのような……」
うっとりとした眼差しを浮かべた後、こちらをみて優しく微笑む。ただ装束を着て校内を練り歩いただけなのに、彼女の目には随分と神々しく映ったらしい。しかし、今度は急に思い出したかのように、春香ははっとした表情を浮かべた。
「でもでも、本来であれば巫女舞なんて神楽殿があるところでしか見れないわけだし…」
腕を前に組み、思い悩むように眉間に皺を寄せながらブツブツと呟いている。そして今度は、寄せた眉の皺を更に深ませながら、わなわなと震え出した。
「それに、かの有名な東京十社の、由緒ある神社の、本物のお巫女さんであるみことさんの舞いを見れるなんて……。 今日神楽を見る人たちってなんて贅沢者なの~!」
両手で顔を覆って上半身を左右へくねらせる春香。
春香は、今の時代では珍しい神社・仏閣オタクだ。この大学へ入学したのもここに神道文化学部があったからだと言っていたし、この神楽同好会へ入ってくれたのも、私が東京十社に指定されている神社の血縁者だと知ったかららしい。ここではその事実を知っている者はわずか少数だ。その情報は一体どこから入手してきたのやら。
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