二 …四

「……さっきまで、そいつらと会ってたんですか」


 五条は嘲るように浅く息を吐き、ソファから腰を浮かす。研究室に併設されているシャワールームへと向かうため、自分のデスクの棚の引き出しからタオルや下着を取り出してゆく。


「そういえば、昨日は女のところへは行かなかったのかい?」


 乙女は珍し気を装い、五条に質問を投げかける。

 今日は土曜日。いつもであれば、五条は大学ではなく女友達、いわゆるセフレの元へと向かうはずだ。実家へ帰りたくない五条にとって、研究室か女の家が、唯一ぐっすりと眠れる場所だった。元より、今日は研究室にはいないだろうと見込んで足を運んだものの、そのままぐっすり寝こけている五条がいたことに驚いたくらいだった。


「あ、もしかして、修羅場か?」


 面白がる乙女に対し、しれっとした様子で五条は答える。


「別に、ただ都合がつかなかっただけですよ。でも、無理やりにでもどこかに転がり込んどくんでした。朝からこんな厄介ごと持ってきやがって……」

 

 ブツブツと文句を言う五条に、乙女はクツクツと笑いを噛み占める。あの五条が、女に振られるなんて。面白いかな、なんの前兆だろうか。

 ふと横を見ると、無音のまま流しっぱなしにされているテレビの映像が乙女の目に入った。無音の代わりに、テレビの下部分にはテロップで字幕が映し出されている。


《二週間前、渋谷区スクランブル交差点で事故を起こし入院していた大久保健司容疑者が、昨晩死亡しました。健司さんはこの事故で多数の死者を出しており、女子高生一名が死亡、七名が意識不明の重体、二十名が重軽傷を負いました。警察は現在———》


 連日報道されている事件に、また進展があったようだ。二週間経過したにも関わらず、容疑者が亡くなった。治療が上手くいかなかったのだろうか。

 乙女がまだテレビに釘付けになっていたのに、五条はテレビを消してさっさとシャワールームのある研究室奥へと引っ込んでしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る