三 …一
文化祭当日。門前には、文化祭執行部員が毎日居残って制作していた立て看板が、でかでかと祭りの開催を物語っている。門を潜り抜けてひとたび敷地に足を踏み入れると、やけに煌びやかな衣装を身に着けた生徒、いたるところで開かれている出店、我先にと客引きを始める生徒が目に入る。
そして……
「はぁぁ~…緊張するぅ……」
正門の盛大なお出迎えを抜ければ、敷地内の少し入り込んだところにある神殿が見えてくる。
そこでは、深いため息が独り歩きをしていた。
ため息の主は、巫女姿に身を包み、唇にはたっぷりと朱色の紅を施している。だれもが目を引く晴れ姿に、似つかわしくない表情を浮かべる本日の主役、三条みこと。
彼女は今、神殿奥にある更衣室のロッカー前に立ち、ロッカーに手をついて絶賛精神統一中だった。
演目自体は午後から始まるのだが、午前中はそれまでに来場客を集るために衣装を身に着けて校内道中を行う。はっきり言って、この道中が一番恥ずかしい。
みことは一人、大きく深呼吸をする。大丈夫、大丈夫、だいじょう——
「三条さん! よかったここに居た」
急に背後から声を掛けられ、精神統一していたみことは、まるで猫のようにビクリと跳ね上がり、勢いよく後ろへ振り向いた。そこには、一学年下の
「……なにかしら?」
名前を呼んだにも関わらず、要件も申さずにその場で固まって微動だにしない春香に、みことは顔を引きつらせながら尋ねた。声を掛けられた春香は、止まっていた時間が動き出したかのように、ハッとした表情を浮かべた。
「あ、ご、ごめんなさい! ビックリさせちゃいましたね」
脅かそうとしたつもりはなかったのだろう。今度は悪いことをした後の子供のように眉毛を下げ、みことに向かってペコリとお辞儀をする。みことよりも幾分小さいその身体は、お辞儀をしたことによって更に縮こまってしまった。その姿を見て、驚いたこちらの方が悪いことをした気分になり、なんだか申し訳なくなってしまう。
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