二 …二
にこやかに胡散臭い笑顔を向けた乙女が、封筒を五条の目の前に差し出す。
いつにもなく圧のかかったその笑みに押され、差し出されるままに五条はしぶしぶ封筒を受け取った。差出人の欄には、一切名前が記されていない。というか、封筒を見る限り、表面にはインクの擦れひとつすらなかった。あるのは、この忌々しいほどに異様な存在感を放つ赤い封蝋印のみ。
「なんで俺が……」
文句を言いながらも中に入っている文書を手に取り、流し見で黙読する。途中まで読んだところで、一気に五条の顔が曇った。そして投げやりに神田の方へ視線を寄こしたかと思えば、寝ていたソファの上に、手にした紙きれを放り投げた。
「なんでこの依頼を俺に寄越すんです。ここの管轄は三条でしょう」
俺には関係ない、とでも言いたげな態度で、ソファの上で胡坐をかき、膝の上に肘を乗せて頬杖をつく。そして、反対の手でガシガシと頭をかいたかと思えば、今度は大きな欠伸をして見せた。昔も今も、態度のデカさは変わらない、と乙女は思いながら、五条が座っているソファに腰掛ける。
「いいじゃないか。 それにほら、ここ明後日文化祭あってさ。 君の見たがっていた神楽舞が見れるかもしれない」
「誰が見たいって?」
君、とでも言いたげに、乙女は無言で視線を寄こす。
その後、胸ポケットから取り出したスマホを片手で器用に操作し、映し出されたディスプレイを五条の前に差し出した。五条の目に、多額の振込金額が記された明細が入る。ジトッと乙女の目を睨む。
「……とんだ金の亡者ですね」
降参したように深くため息をつき、もう一度放り投げた紙を手に取る。当たり障りのない挨拶が連なった後、簡潔な指示内容が記されていた。
【赤坂 正人 の 附物 を 排除 せよ】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます