二 …一

 ppp……ppp……

 耳元でけたたましく鳴り響くアラームの音。脳が半分覚醒した状態でうっすらとまなこを開けると、カーテンの隙間から日の光が差し込んでいるのが見て取れた。アラームの音を消し、自分を包み込んでいる毛布をもう一度頭から深くかぶり直す。二度寝程、幸せなモノなんてない。きっと全人類が共通認識を持っていることだろう。そしてそのまま、意識を手放そうとしたその時……。


「こら、寝るんじゃない」


 頭を覆っていた毛布が引き剥がされ、少し肌寒い空気が身体を一気に冷やした。続いて、先程まで一筋の光がうっすらこの部屋を差し込む程度だった日光が、シャーッとカーテンを開ける音と共に、全身全霊でその身に降りかかる。身体を猫のように丸め、眉間に皺を寄せた青年、五条尊ごじょうみことは、眠たくてなのか、はたまた日光の光が眩しくてなのか、どちらにせようっすら瞳を開き、ギロリと自身の睡眠を邪魔した人物を睨んだ。


「……何の用ですか」


 開口一番、酷く機嫌が悪そうに言ってのける五条。その凄みに対し、言葉を投げかけられた当の本人はしれっとした様子で、まだ丸くなって動く気配がない五条の前で腕を組み、ニヤリと口元に笑みを浮かべた。


「なに、ここは私の研究室だ。 ここにあるものは、私がどう扱おうが勝手だろう?」


 そう言ってにこやかな笑みを浮かべる目の前の人物は、この大学で教授をしている乙女大和おとめやまと教諭。確かにこの部屋の主ではあるが、仮にも大学内にある研究室。完全なる私的所有物同然のように語るのは如何なものだろうか。

 しかし、その自由奔放な乙女がいるからこそ、五条が研究室ここを寝床に出来ているのは確かだ。


「さっさとシャワー浴びてこい。 君にイイ話を持ってきた」


 暴君だ、と反論しようとしたところで、五条はあるものに気付いた。乙女が着用している白衣の右脇に挟まれたA4サイズの茶封筒。ピシッと綺麗に折り目のついた封筒の開口に押された赤い封蝋印には、見慣れた、そして、見たくもない紋がくっきりと浮かび上がっている。この時点でもう、嫌な予感しかしない。


「君に依頼だ」

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