一 …三
「どうしたの、じゃないだろ! 三条さんからまだみことが帰って来てないって聞いたときはとうとう誘拐されたかと思ったぞ」
はぁ、とまたため息をついて、事のあらかたを説明してくれる久遠お兄。どうやら、今日は月に一度開催される東京十社の定例会に、
「帰る途中に、三条さんに呼び止められて……危うく警察沙汰になるところだったんだぞ」
電話越しでも分かる、久遠お兄のげんなりとした表情。三条さんとは私の母の事で、きっと頻繁に私と連絡をとっている久遠お兄なら連絡が取れるのではないか、と声を掛けたに違いない。
「ごめんごめん。 ほら、もうすぐ文化祭でしょ? 今年は私が巫女舞を踊ることになってるから、残って練習してたの」
理由を伝えると、久遠お兄は「はぁ……」とため息をついた。どうやら怒りを通り越して呆れているらしい。まったくこいつは……とでも思っているのだろうか。
スマホの向こうから、じゃりじゃりと石砂利が敷き詰められた道を歩く音がかすかに聞こえてくる。
「分かったから。 今どの辺りだ?」
私は歩みを止め、周辺を見渡す。ボーッとしながら歩いていたせいで周りを見ていなかったが、どうやらもう裏門まで来ていたらしい。
「今、丁度裏門に着いた」
一言告げると、電話口からバタン、という音が聞こえた。その次に、車のエンジンをかける音。そして、先程までくぐもって聞こえていた久遠お兄の声が、急にクリアになった。どうやら車のスピーカーに繋げて通話をしているらしい。そしてその後、カチャリ、とシートベルトを挿す音が聞こえてくる。ここまでが、久遠お兄の車に乗り込むときのルーティン。
「遅いからうろちょろしないこと。 迎えに行くから」
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