一 …二


 自分の身近な人間の持ち物を、分かる範囲で一通り思い起こしてみる。神楽同好会の部員のものではないし、まして先生は男性、こんな煌びやかな装飾が施された手鏡なんて、持ち合わせていないことは確かだ。

 

(まぁ、週明けみんなに確認すればいっか)


 再び手鏡をバッグの中に仕舞い込み、元より探していたスマホを手に移し替えてディスプレイを確認する。

 確認した瞬間、ギョッとした。

 電話の相手は、幼いころから親交のある神社の跡継ぎ子息だった。着信は一件に留まらず、もう何十件と彼の名前が連なっている。確認して固まっていたところで、再びスマホが手の上で振動し、着信を知らせる。今度はワンコールもしない間に、通話ボタンを押した。


「なに? どうしたの久遠くおんにい


 通話口を耳に当てる。電波を介した相手は、一瞬息を呑んだ後、緊張の糸を解くように深く安堵の息をついた。


「……よかった、電話に出た……」


 いつも通りの、よく知った声だ。誠実な久遠お兄らしい、凛とした声色。神社の跡継ぎとして厳しく育てられてきた彼の苦労が伺える。だが、厳しく育てられてきたが故に、少し女性に対して不器用だったり、妹同然のように可愛がってくれている私に対しても、親族も引くほどに異常なまでの過保護さを見せている。


 そんな久遠お兄が私に対してこんなに連絡を寄こすことは決して珍しいことではなく、事あるごとに連絡してきては安否確認をしてくれている。はっきり言って、ちょっと迷惑だが。


「どうしたの? そんなに慌てて……」


 久遠お兄に比べて、呑気な私の声が暗い夜道に響く。サァサァと木々を揺らす風の音を聞きながら、ほの暗い一本道を歩き続ける。まだ大学の敷地内という安心感もあるからか、薄暗い夜道を一人で歩いていても心の余裕を感じた。

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