X警察署内の会話より
「あ、警部、昨日の記者会見、もうネットに全部上がってますね。ええと、結局どういう事ですかね? 突然変異がないって事は、ひとまずゾンビに危険性はないって事なんですか?」
「バカ、逆だろ。そいつ一匹だけの突然変異でないなら、他のゾンビだって突然人間を襲って食いだすかもしれねえ。何がきっかけで人喰いゾンビどもが街に溢れ出すか、分かりゃしねえって事だよ。……そんな事よりお前、こんな所で遊んでていいのか? 鑑識の結果は上がってきたのかよ?」
「はい。ここにまとめてあります。ええと、被害者の死亡推定時刻は10月2日午前1時。やはり11時37分の自発呼吸停止後に事件が起きたものと思われます」
「ふん、すると、Aが発病前に看護師を殺した可能性は低い訳だな……いや、待てよ、その時現場にはAと被害者以外誰もいなかったんだろ? Aが何らかの形で機械をごまかした可能性は?」
「ええと、可能ではありますが、そうなると別の問題が出てきます。Aは運動経験もなく高齢で、被害者と比べてもかなり小柄でした。遺体の状況から被害者は抵抗の末に撲殺された事が明らかですが、現場には凶器らしきものもなく、たとえ不意を打ったとしてもAが被害者を素手で殺害する事は困難です。……通常の状態であれば、ですが」
「その点、ゾンビどもは脳がイカれてるせいか、後先考えずとんでもない馬鹿力を出すからな。それに痛みも知らないから、小柄な年寄りでも若い看護師と殴り合って勝てるという訳だ。ふん、筋は通るな。じゃあ逆に考えてみるか。現場にAと被害者以外の誰かがいた可能性は? 第三者はいなかったのか?」
「Aが入っていた病室は富裕な患者向けの個室です。現場にはカードキーがなければ入れず、また出入りをすれば必ず記録が残ります。10月1日の夕方から犯行が発覚した時刻まで、人の出入りはなかった事が確認されています……何だかゾンビじゃない奴の仕業にしたいみたいですね」
「まあな。『ゾンビのしわざでした』じゃあ週刊誌の後追いだ。これだけ労力かけて単なる事故の処理扱いじゃあ目も当てられねえよ。ああくそ、同期は児童養護施設の行方不明事件なんて大役を任されているのによ……」
「僕にはよく分からないんですが、そんなに出世ってしたい物ですかね? 大して給料も増えないのに責任ばかり増えて、メリットあるんですか?」
「そういう事じゃねえよ、俺はな……まあ、そういうモンか。欲しい物なんて他人には分かんねえモンだ。ほら、アレと同じだよ、ゾンビ。結局専門家が顔突き合わせて会議したって『ゾンビは何が楽しくて人の肉なんか食ってたのか』なんて分かるもんじゃねえだろ?」
「うーん、分かったような分からないような」
「とにかく、出世したいのは本当だよ。全部を説明できる訳じゃねえが……あ、あれ? 説明できないけど、本当? 今自分で言ってて何か引っかかったような……あ、あああ……! うう……!」
「どうしました? ゾンビみたいな声出して」
「ああ……分かっちまったかもしれねえ、ゾンビが、何が楽しくて人間を食ったのか。あー、動ける奴は何人いる? 令状を取ったら、人数集めて向かいたい所があるんだ。あまり気は進まないんだが」
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