二話 魔人とは
「それで魔人は私たち人類が起源になっているから、私たちと同等の知性を持ってる。だから、私たちと同じように新たに魔法が生み出せるんだ」
魔人は人間と同じように考え、思考し、そして想う存在だ。
まぁ、人を喰らうことが性である事は違うが。残酷で冷徹で卑しいのだ。
けれどそれ故に、想いによって創られる魔法を持っている。
そして、彼らは親から受け継いだ魔法と自分が創り出した魔法のどちらか強い方を魔石に刻んで子を産むのである。
しかも、人類と同じように魔法を理論にすることもできるし、俺と同じように魔素で身体を構成されているため寿命はない。
だから、とても強い。
「そして魔人はどの時代においても人類を殺すことに熱心だ。人類の歴史は常に魔人とある。今でもそうだ」
幸いなのは繁殖能力がそこまで高くなかったことだけである。
「レーラン先生。質問よろしいかしら」
「……アウルラか、いいよ」
丁度、口では説明しきれなかった補足事項を黒板に書き終えたレーランは凍える瞳をライゼの後にいたアウルラに向ける。
「レーラン先生、確かに魔人が強いのは分かりましたわ。けれど、勇者エルピスによって魔王討伐がなされた今、残された魔人たちに
魔王とは魔人を纏め、人類を襲うための組織を創った存在だ。元々魔人は知性を持っているが、悪魔の性質を強く受け継いでしまったのか我が強く、好き勝手に人間を襲う存在だった。
しかし、千年近く前に現れた魔王という魔人が多くの魔人を纏め上げ、組織的に人間を襲いだしたのだ。
だが、その魔王は六十年前に勇者エルピスの御一行に倒された。
たった、四人のパーティーだったそうだ。世界中で語り継がれている。
それくらいの偉業であり、また、だからこそ六十年経った今でもアウルラの様な考え方が、特に魔人領と接していない南方のファッケル大陸では主流になっている。
魔王がいなくなり、魔人に襲われる事が少なくなったからだ。
「……そうだね。分かっている歴史から鑑みればそうだろう」
それ故にレーランはとてもアウルラと、とても遠い場所を見て。
「けれど、そもそも魔王がこの世に誕生する遠い昔から、魔人は人類に多大な被害を出していた。それこそ今の人類圏の半分を支配するほどだ。そしてむしろ、魔王がいなくなった今の方が魔人たちの行動が読めなくなっている部分もある」
永久凍土の瞳を向けて。
「十分脅威だ」
講義室全体が氷に包まれるたと錯覚するほどの言葉でそういった。
背筋が震え、恐怖によって心が竦む。
チラリとライゼが羽織っている深緑ローブから周囲を見渡せば、多くの生徒が悲鳴にすらならない悲鳴を上げている。
それくらいの殺気がこの講義室を満たしている。
まぁ、ライゼは普通にレーランを見ているが。
「だから、その考え方ではいつか魔人が攻めてきたときに死ぬよ。実際、そんな甘ったれた考えを持っていた町が魔人に襲われて無惨に滅んだのを私は見たよ」
「ッ」
多くの生徒が、貴族たちが息を飲む。
アウルラは唖然として、口をパクパクとしている。王族として、人の上に立っている者として、それを知らなかったのは恥であると思っているのか、顔を真っ赤に染めている。
まぁ、そもそも選別された情報しか入ってこない場所で培った考えを壊すためにこの学園に入っているとも言えるので、知らなくて当たり前なのだ。
つい最近知ったのだが、多くの貴族、とくにそれらに雇われた存在は、貴族の子供に対して口当たりのいい言葉しか言わないらしい。
そっちの方が安定して雇ってもらえるからだが、それゆえの弊害がある。
それをなくすために、前国王は貴族の子は必ず王立魔法学園に入る様に義務付けたのだ。
そして王立魔法学園は王立と名がついているが、魔法という権威によって半ばアイファング王国から独立しており、だからこそ現実を見た考えを教える。
「……魔人の講義はここまでにする」
レーランは思わず発してしまった殺気によって、生徒たちが講義に集中できなくなったことを察し、講義を終了させた。
実技は自主参加になった。
Φ
「ライゼはどれくらいの殺気に耐えられる?」
ここは学園からレーランに与えられた研究室。
ライゼはレーランの推薦と学園からの許可もあってレーランの研究の手伝いをしている。ついでに、ここに泊っている。
「……人を喰おうとしている魔人の殺気までかな。そこまでなら耐えられたという実績があるからさ」
魔人の講義から数日後。
そんな研究室でレーランはライゼに興味本位でライゼに聞いた。
「……そういう事か」
そして返って来た言葉に、チラリと灰が混じるこげ茶の紙を見て、無感情に、無表情に頷いた。
「悪い事を聞いたね」
「いえ。もう、八年近く昔だから整理はついてるよ。それにそのあと、ある人に拾って貰ったし、ヘルメスとも出会ったから」
小さい時の事だから記憶にはそこまで残ってないんだろう。
それでも、心には刻まれている気がするが。幸せも絶望も恐怖も。
けど、それを俺が如何こうするものではない。ライゼが向き合って、整理したと言うならそれまでなのだ。
蒸し返すものではないし、今はその時期じゃない。
「……そういえば、ライゼが世話になってた老人について、あんまり聞いてなかったね。どんな人だったの?」
「……優しくて、温かくて、僕に色々と教えてくれた人だったよ。けど、名前は知らなかったから先生って呼んでたよ」
「ふぅん」
懐かしそうに、大事なものを抱きしめるように呟いたライゼに、レーランは少しだけ拗ねたように頷いた。
ここ最近だが、動かないと思っていたレーランの表情が本当に僅かだが動いている事が分かった。
ライゼが最初に発見したのだ。
「あと、このペンダントも貰ったよ」
そしてライゼは白いシャツの下にあった蒼い宝石のペンダントを取り出した。
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