一話 出席
「今日もサボり?」
「……課題は終わってるよ」
数万にも近い書物が立ち並ぶ図書館で、ライゼは魔導書を読んでいた。
そして、ライゼは授業を出ていない。正確には、出れなくなったと言った方がいいのか。まぁ、王立魔法学園に入学して半年が過ぎて、色々とあったのだ。
「ふぅん。それでヘルメスはロマンス小説を読んでるのか。トカゲなのにロマンス小説とは笑える」
『笑えると言うなら、まずその氷の仮面を溶かした方がいいと思うぞ』
〝
〝
「レーラン先生こそ、講義に出なくていいの?」
「私が受け持ってる講義は君が唯一出れる講義だけだと知っているよね。……学園生活は嫌かい?」
金髪のポニーテールを揺らしながらレーランは、翡翠の半眼を魔導書を閉じたライゼに向け、聞く。
ライゼは少しだけ困ったように眉を上げる。ここ半年で、困ったように眉を顰めるのが板についてきてしまった。
そのせいか少しだけ顔つきが大人っぽくなった。
なので〝
「どうなんだろう、嫌ではないと思うんだけど……まぁ、小説とかで読む学園生活らしい事は一つもしてないから何とも。……あ、ヘルメスが好んで読んでるロマンス小説のヒロインみたいなイジメは受けたから、もっともらしい事はやったかな」
屈託のない笑顔で言い切ったライゼに対して、レーランは少しだけ溜息を吐く。
何故かライゼ相手だと、レーランは少しだけ表情を動かすんだよな。
「だから、嫌かどうか聞いたんだけど」
「……イジメ自体は少しだけ悲しかったけど、それがあったおかげで、課題と試験さえ受ければ単位が取れるように学園側が許可してくれたからね。こうして、一日中魔導書を読んだり、解読したりできるから嫌というよりは感謝してるんだよね」
「……そう」
皮肉を言ってるわけでもなく、心底そう思っているライゼの言葉を聞いて、レーランは翡翠の瞳を向けた。
そこには懐古の色が浮かんでいた。何が懐かしいんだろ。
「……まぁ、二年間あるしいいか。それじゃ、私の講義には遅れないようにね」
レーランはクルリとライゼに背を向けて図書室を出て行った。
と思ったら、帰って来た。司書さんに図書館の入出管理票を出してなかったらしく、引き戻されたのだ。相変わらず、細かいところは抜けているようだ。
Φ
「うん、みんな揃ってるね」
大きな黒板の前でレーランが立っている。
百三十センチほどの身長だからか、教壇に立っているレーランは似合わない。けれど、彼女は珍しく楽しそうに瞳を輝かせていた。
フスンと鼻息が一つ鳴った。
「さて、今日は魔法と魔人についての講義をした後、いつも通り魔法技術を向上させるための訓練を第三演習場でする」
そう言いながらレーランは黒板にチョークで書き込んでいく。
ライゼは“空鞄”から血誓魔道具のノートと羽ペンを取り出し、書いていく。
血誓魔道具とは、その魔道具に血を垂らした者しか使えない魔道具である。
というのも、殆どの荷物を“空鞄”に閉まっているとはいえ、少しだけ席を開けた時に、ノートを無くされたり、破かれたりしたことがあったため、少しだけ奮発して良い魔道具のノートを買ったのだ。
その魔道具ノートは“無限の葉”と言って、先程話した通り、特定の人物にしか使用できず、また、魔力を注ぐとページが増えるのだ。
また、同じく血誓魔道具の羽ペン、“魔力ペン”を使うと、魔力を注いで書いた文字は書いた本人にしか見えないようになるのだ。
俺ではまだ作れなかったので買ったのだ。来年には作れるようにする。
「だから魔人は人類の言葉を話し、また、相応の知性を持つ人喰いの魔物なんだ」
レーランの授業は進む。
魔物とは魔石を持つ存在である。
普通は生物にカテゴリーされなさそうな存在、例えば奇怪な石でも、魔物である場合がある。異形の集まりの存在だ。
ただ、繁殖はする。生殖器などない奴もいるのに繁殖できる。
そして、魔物は総じて死ぬと魔石を残して消える。怪しい黒の煙となって宙に溶けるのだ。
と、ここで面白い事を話すと、ゴブリンは魔物ではない。ゴブリンは人間ほどの知性は持たないが、道具を作ったり、社会構造を持ったりする小さい人型の動物だ。
繁殖能力が高いため、また、雑食で悪知恵だけは働くため、よく農村を襲って作物を手に入れたり、人を食べるためにおそったりする害獣である。
そのため、冒険者ギルドでは常時依頼としてゴブリン討伐がある。
「そして何より、魔人は魔物であるから固有の魔法を使う。しかも、他の魔物と違って高度な社会構造と知性を持つため、私たちのような体系がある魔法も使う」
魔物は魔石によって魔法を使う。
魔法には、
そして魔物とは、悪魔が何かしらのの魔法と〝
つまり、魔石は何らかしらの魔法を〝
そして、魔人は人類にその魔石を埋め込められた存在が祖である。
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