Final ──決勝──
だが、その声援は悲鳴に代わった。
メインストレートを抜けての、第1コーナー。迫られるレインボー・アイリーンはプレッシャーによる焦りからかインを空けてしまい。そこにカール・カイサが飛び込む。
と、そのまま2台は絡んで。あろうことかダブルクラッシュをしてしまい、吹っ飛んでフェンスに激突。
ともに一発廃車のダメージで、幻と消えていった。
「オーマイゴッド!」
「なんということでしょう!」
実況解説もこのアクシデントに絶叫する。チャットもざわめく。なにより、アレクサンドラやカール・カイサの家族は唖然とディスプレイを眺めるしかなかった。
レインボー・アイリーンとカール・カイサは同時にシムリグから立ち上がり、素早くマスクをつけ、互いに歩み寄る。
双方のスタッフが慌てて駆け寄る。
揉めるか、と誰もが心配した。
「I'm sorry」
同時に双方から謝罪の言葉が発せられた。
それから、互いに笑顔を見せ、肘タッチで互いの健闘をたたえ合い。スタッフスペースに戻った。
「抜くときに膨らんでしまった。悪いことをした」
「抜かれたくなくて余計にインを閉めようとしちゃった。悪いことをしたわ」
それぞれ、そうスタッフに説明する。それからスマホで、故国の家族に、
「リタイヤしてしまった。ごめんよ」
とメールした。
そうするうちに40周を超え。レースは終盤に差し掛かった。
(びっくりしたなあ、もう)
トップ2台のダブルクラッシュには驚かされたが、幸い巻き込まれずにスルーできたのはよかったが。これでトップ争いは、フィチとヴァイオレットガールと龍一のマシンの、3台に絞られた。
フィチも全力で飛ばす。しかしヴァイオレットガールも龍一もしがみつくように追走する。
残りあとわずかだ。フィチは逃げ切れるか、それともヴァイオレットガールが、あるいは龍一が逆転するのか。
「ひゃああ、チームメイト同士のトップ争いですか」
「胃がキリキリするわ……」
ウィングタイガーのスタッフたちはディスプレイを凝視する。
「うああっ……」
と唸る間に、連続S字区間入り口でヴァイオレットガールのマシンがフィチのマシンのインを突いた。
「いかせるか!」
フィチは粘った。ここで粘れば次で自分がイン側だ。そしてその通り、2台並走して真ん中の左コーナーに差し掛かり、フィチがイン側。しかし今度はヴァイオレットガールが粘り、2台並走し。次の右コーナーではヴァイオレットカラーのマシンがイン側となり……。
「OK!」
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