Final ──決勝──

「まさかッ!」

 レインボー・アイリーンもカール・カイサのジャンプアップには驚きを禁じ得ず。伴侶のアレクサンドラも心配そうにディスプレイを見つめる。

 その様子は龍一も見て、走りながら唸らされた。

(とんでもねえ)

 だが驚くあまりペースを落とすような間抜けはしない。追いかける当面の相手がカール・カイサからヴァイオレットガールに代わっただけだ。

 いや、むしろその方が気合が入るような気がした。

「トモダチ! ガンバル!」

 と言ったのを思い出す。

「うん、頑張るよ……」

 最終コーナーを抜け、メインストレートを駆け抜ける。

 実況と解説が唸る。レース開催の喜びで興奮し唸ってばかりではあるのだが。ともかく唸った。

「ドラゴンがファーステストラップ!」

「タイムは1分30秒125!」

「このタイムはドラゴンの自己ベスト更新でもあります」

「ファイナルレースで自己ベスト更新は、えらいことですよ!」

「ヴァイオレットガールのワールドレコード、1分30秒007に次ぐ2位のタイムでもあります」

 チャットも大盛り上がりで、書き込みの移動も早くなる。

「持つの?」

 ソキョンは苦笑する。心配の中身が変わった。

「すごいですねえ、すごいですよ龍一さん」

 優佳は笑顔でヘッドセット越しに声援を送る。反応はないが、受け止めてくれていると判断した。

「大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫!」

 ヴァイオレットガールはスタッフとそんなやりとりをする。トップを譲ってプレッシャーをいなすことを言ったのはスタッフからだったから、責任を感じていた。

「みんなすごく速いね。どのみちトップを奪われてたわ」

「そうか……。だが君ならやってくれると信じているよ」

「うん、信じてて!」

 ミラーを覗けばドラゴンこと龍一のマシン。

 追いついたのだ。

(すごい集中力!)

 優佳はディスプレイとシムリグを交互に見て、唸らされる。

(龍一さんは、自分のゴーストに勝った!)

 タイムトライアルで一時トップに立ちながら5位にまで落ちて。自己ベスト更新もならないと悩んでたと聞いたことはあったが。

 まさかここで自己ベスト更新をするなんて。なかなか本番に強いと感心させられた。

 周回数は重ねられる。レインボー・アイリーンは逃げ切ろうとするが、後ろも粘って追走する。そこに龍一も加わった。

 35周目をすぎ、36周、37周……。とディオゲネスの市街地サーキットを駆け抜けてゆく。

「さあ、そろそろ行かせてもらおうか」

 愛しい我が子に勝利を捧げたいと話していたが。それは自分がさせてもらおう。今頃はカール・カイサの家族もディスプレイを凝視し、応援してくれているはずだ。

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