Final ──決勝──

「逃げる気満々ね」

「判断が難しいところですね」

 ソキョンたちはディスプレイを見据えて唸る。レインボー・アイリーンはハイペースで飛ばす。それを無理に追走し、引き摺られてしまえばペースが上がった故にミスする確率も多くなり、リタイアの危険性も増す。無理せずにペースを保てば、2位は確実でも優勝の見込みはなくなる。

 さあ、どっちを取る? スポーツにおける究極の選択。

 周回数も重ねられてゆく。

 気が付けば25周を過ぎ、レースの半分を消化していた。

 順位はそのまま。

「フィチ、いけそうなの!」

「……」

 ソキョンの呼びかけに応えない。いや、応えられないのか。

 ファーステストラップはあれから更新されていないし、ペースもやや落ちたが、レインボー・アイリーンは粘り。

 決してトップを譲らない。

 確かな2位より、不確かな1位を奪いに行くことを選んだのだ。ソキョンたちはそう受け止めた。

 立場上では、リタイアのリスクを避け確実な2位を取ってほしいとは思うが、ひとりの人間としては、勝ちに行ってほしかった。

 集中しているのを余計なことを言って乱すわけにはいかないので、ソキョンたちも黙って見守るしかなかった。

 龍一といえば、4位のカール・カイサに追いつこうと必死の追走を見せる。その甲斐あってか、差はやや縮まった。

「ドラゴンが来ているぞ!」

「わかった!」

 カール・カイサは、5台によるトップ争いになると判断し、自分に言い聞かせた。

 かといって、4位のまま追いつかれても構わないわけはない。

「!!」

 連続S字区間を抜け、次の右直角コーナー。いけると踏んで、前のヴァイオレットガールのインに並んだ。

(やられた!)

 前にばかり気を取られ、後ろへの警戒を怠ってしまった。コーナーを立ち上がって加速するとき、カール・カイサが完全に前で。フィチを狙う。

「このままいかせてもらおうか」

 不敵な笑みを浮かべる。

「あッ!」

 いつの間に!?

 インを閉めようとしたら、いつの間にかカール・カイサ。確かに後ろも警戒していたのに。

 最終コーナーを立ち上がり、メインストレートを加速するとき。カール・カイサは2位になり、トップのレインボー・アイリーンを追走していた。

 4位から2位へのジャンプアップに、実況と解説もチャットも盛り上がる。チームヴァイオレットのスタッフに、フィチの両親とコスプレコンビに、ウィングタイガーのスタッフは唸らされてしまう。

 デンマークのカール・カイサの家族はディスプレイを見つめ、歓声を上げた。

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