Battle against myself ―自分との戦い―
これくらいはわかって。
(オレと同じこと言ってら)
と、おかしみを覚えた。
双方ともタイムトライアルモードで、自分のゴーストを追っていた。ふと、ボイスチャットをオンラインにした。
「あ、龍一、ヴァイオレットガールとレインボー・アイリーンがライブ配信してるよ」
「うん、観てるよ」
「そうか。お手並み拝見といこうじゃないか」
フィチが言うと同時に、双方のライブ配信画面横のチャットに、フィチの名と、
Let's go!
という言葉が表示された。
フィチの書き込みだ。
シムリグでなく、机のノートパソコンで動画を観ていた。
フィチもSNSを積極活用し、ヴァイオレットガールとレインボー・アイリーンと相互フォローでやりとりもあった。
チャットの文字列はふたりにも見えて。
「あらフィチ、観てるのね」
「悪いけど引き離しちゃうよ!」
と返した。もちろん英語だが、フィチが訳して龍一に伝えた。
「仲がいいもんだな」
「そうだね、ライバルでもあり、友達でもあり。切磋琢磨し合ってるよ」
「そうか。……いいもんだな」
SNSというものは、性格がもろ出る。積極的な人はよく活用し、交流も活発だが。龍一のようなシャイな人は、静かに息を潜めるようにして、SNSの文字列をながめている。
フィチは龍一のその性格を尊重して、無理な使用を強いることはなかった。
と言っても、最初は龍一も公開にしていた。まだワールドレコードを出す前。タイム記録表で自分のひとつ上の彼の事を知り、SNSのアカウントがあり、龍一の方からフィチにコンタクトをし、
빠른 네요 (速いですね)
と韓国語で書き込めば。
ありがとうございます! 日本の方ですね。日本語OKですよ。
と返ってきて、初っ端から驚いたものだった。
英語に比べて韓国語は翻訳しやすく、文字によるやり取りもしやすいので。思い切ってコンタクトしてみたのだが。相手が気を使ってくれて、日本語でやり取りできるのは嬉しい誤算で、ありがたかった。
「将来はいろんな国を飛び回れるようになりたいんだ。だから語学を勉強しているんだ」
付き合いも深まり、友達になって。ボイスチャットで話をするようになって、フィチはそんなことを話してくれた。
しかしSNSには悪い面もある。炎上である。
炎上で燃え盛る文字列を見て、フィチも複雑になりながらも上手く対応していたが、龍一はげんなりさせられることが多く。やむなく非公開にした。
(この人はシャイな人だな)
と、SNSを非公開にした龍一に対してフィチはそんな印象を持ち。その性格を尊重した。
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