Battle against myself ―自分との戦い―

 中にはSNSそのものに嫌気がさして、一切のアカウントを削除する人もいる。SNSも人の世の一部であり、写し鏡だ。人の世は色々と難しものだった。

 ともあれ、ヴァイオレットガールとレインボー・アイリーンのライブ配信である。

 ハンドルネームと同じヴァイオレットカラーのマシンが、鮮やかなレインボーカラーのマシンが、ディオゲネスの市街地コースを疾走する。鋭く突き抜けるモーター音が空を貫くのを耳にしながら。ドライバー視点で、HALO越しにタイムを追っていた。

 ヴァイオレットガールの場合はワールドレコードだ。自分を相手に世界最速を懸けたバトルをしているのだ。

「うっほ」

 龍一は思わず声を漏らした。ほとんどミスのないように見えるその走り。ゴーストもほとんど見えない。

「相変わらず、凄いな……」

 フィチも思わず声を漏らし、動画を観るのに夢中でチャットへの書き込みを忘れてしまう。が、手にはしっかりビスケット。こればかりは忘れない。

 モーター音とともに風を切るヴァイオレットとレインボーのマシン。走りもスムーズで無駄がない。見えないレールの上を滑走しているようだ。

 タイムも自己ベスト、ワールドレコードからコンマ5秒以内でおさまっている。

「ゴーストがちらつくってのは、ようはムラがあるってことなんだな」

 ふたりの走りを眺めて、龍一は苦笑し自分の走りを省みる。

「喉渇いたな」

 シムリグを離れて、素早い動作で冷蔵庫の缶コーヒーを1本と、ペットボトルの水を取り出し、コップも一緒に持ってシムリグに戻った。

 まだレコードは更新されていない。それでも、

「オレより速いのな」

 龍一のタイムは、1:30.777。こなされる周回を缶コーヒー片手に眺めて、おおよその平均値が、1:30.5から6なのを見て。思わず苦笑する。

 必死の思いで叩き出したタイムよりも、当たり前のように速く走られているのだ。

 ヴァイオレットガールもレインボー・アイリーンも、ほとんど無口状態でディスプレイを見据えハンドルを操作している。ぽそっとつぶやく。

「一体どうすりゃあんなに走れるんだ?」

「龍一、今いいかい?」

「なんだ?」

「唐突で申し訳ないけれど、僕のチームに入らないか?」

「え?」

 本当に唐突だ。フィチは構わず続ける。

「ヴァイオレットガールもレインボー・アイリーンも、そして僕もチームに入って、チームのメンバーとして活動をしている。対して君は個人活動だ」

「あー、言いたいことはわかるけど……」

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