Battle against myself ―自分との戦い―
ともあれ、楽曲を耳にしながら、自分の走りを見直す。
「ミスが多いなあ」
満足に走れた周回はなかった。どの周回もどこかでミスをしてタイムをロスしてしまっている。
ディスプレイの中では、観客たちが寄り集まって疾走する電動フォーミュラーマシンに熱中していて。コロナ禍の現実世界と一線を画しているように感じられたが、もちろんパンデミック前では、当たり前の光景だった。
左上の端にはタイムが表示される。
時計を見た。
「今5時、17時か……。ロンドンは朝の8時で、ニューヨークは早朝の4時か」
とか考えながら、手はスマホを取って、タップの動作をしていた。動画投稿サイトにアクセスし。フォロー登録一覧を覗く。
「おっ」
ヴァイオレットガールのアカウント名の横に赤いライブマークが点いている。と思えば、レインボー・アイリーンにも。
「もう起きてるのか」
広い世界の、広いインターネットの世界だ。早朝アクセスも珍しくなければ、徹夜アクセスも珍しくない。
そばに置いているサイドテーブルのキーボード脇のマウスを操作し、ディスプレイの画面を動画投稿サイトにして。ブラウザをふたつディスプレイの半分ずつ立ち上げ、ヴァイオレットガールとレインボー・アイリーンのライブ配信を観る。
動画の画面は、マシンのコクピット視点で、右に左にハンドルを操作している。その動画の画面の右下に操作するプレイヤーを捉えたサブ画面が表示されている。
「Couldn't sleep, took the plunge and wake up」(寝付けなかったから、思い切って起きたわ)
と、レインボー・アイリーンは言うが。龍一にはわからなかった。早い時間にもかかわらず、彼女は白いTシャツにジーパン姿で。青いレーシンググローブを嵌めた手でハンドルを操作していた。足は映ってないが、同じ色のレーシングシューズを履いてペダル操作していることは想像に難くなかった。
彼女はプロのシムレーサーである。チームと契約・所属し、契約金も提供されている。気まぐれのライブ配信でも、装いはしっかりしていて、きりりとした雰囲気は確かにプロ意識を感じさせて。同時に、モデル業の副業もしているのかと思わされるほどの凛とした雰囲気も感じられた。
ヴァイオレットガールと言えば、所属するチームのヴァイオレットカラーのシャツを身にまとい。ヴァイオレットカラーのグローブを嵌めて、真剣な中にも闊達さを感じさせる面持ちでディスプレイを見据えていた。
「Hey. Are you me?」(ねえ。あなたは私なの?)
と歌うようにつぶやく。
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