第27章 Sクラス、特訓開始
――大会まであと十三日――
「よし、全員揃ったな。ではこれより、アーケニッヒ魔術大会に向けた作戦会議を始める」
学院の広大な中庭に、Sクラス全員が集合したことを確認したカイル君は、温暖な昼下がりに、気持ちいいくらいよく響く声で宣言をした。
「なぁカイル、今更だけどなんでこんな正門前の中庭集合にしたんだよ、人めっちゃ通るから恥ずかしいんだけど」
カイル君の宣言とは反対に、クラスの男子からか細い声でカイル君に抗議の声が上がる。
しかしそれも無理はない。ここは学院に入る際に必ず通る場所であり、しかも今は大会前ということで、注目選手を取材するための各種メディアなどの外部の人間も多く出入りしている。
そんな中、カイル君が大声を張り上げたことにより、周囲の人間から奇異の視線が私たちに注がれる。正直言って、私もちょっと恥ずかしい。
「恥ずかしがってる場合じゃなーい!大会当日は外のグラウンドで、しかも今以上のギャラリーの目に晒されるんだぞ!実戦経験が乏しい俺らはまず、こういった環境に慣れておくことも重要だ」
一応はカイル君も、自分なりにクラスの課題点は見えているわけですね。ここだけ聞くと、昨日までクラスメイトを死んだことにしておいた人とは思えません。
「特にレイア!」
「へ?は、はいぃ!」
急に自分に矛先が向くと思っていなかったのか、レイアちゃんが素っ頓狂な声を出した。
「リリエルが不在だった間、お前の成績はこのクラス内で実技も座学も堂々の一位だ。二位の俺を大きく離してのな……。だというのに、対人戦になった時のあのザマはなんだ!いつも無抵抗でやられてるじゃないか」
「そ、そのね、もし怪我をさせちゃったら痛いだろうなって思――」
「甘いぃーーー!!」
「ひぃ!?」
カイル君から突然の渇を入れられたことで、小動物のように怯えるレイアちゃん。
「勝負の世界は生きるか死ぬか、迷った奴から死んでいくんじゃい!」
「そ、そんな……」
と、さすがにレイアちゃんを気の毒に思ったのか、他の女子から仲介が入った。
「まぁまぁカイル、まだ時間はあるんだし、これから直していけばいいじゃない、ね?」
「うぬぬ、まぁそうなんだが……」
カイル君も歯がゆいだろうなと思う。自分以上の才能を持っているのに、その実力を本番で発揮してくれないというのは。けれど、人のことを思いやれる彼は同時に、心優しいレイアちゃんを強引に戦わせることが酷だということを理解しているはずです。
とはいえ、他の参加者が必死になって大会に臨んでいる中で、全力で戦わないというのは相手からしても失礼ではありますね。難しい所です。
「リリエル、正直な感想を述べてほしい。今の俺らの実力からして、優勝は望めそうか?」
場を持ち直すために、カイル君は今度は私に話を持ち掛けてきた。
Aクラスへの勝利ではなくて優勝ですか、大きく出ましたね。
「そうですね……。まず昨日言ったように、私は今回あまり戦力にはなれないと思います。どうしても二年間のブランクがあるので」
私は昨日皆に、学院を開けていた間はあまり魔法の練習ができなかった、という旨を話しておいた。仕方ない嘘とはいえ、その時の皆の気を落とした表情は、今でも後ろ髪を引いてくる。
「けどそれを抜きにしても、可能性は十分あると思います」
「本当か!」
不安そうに聞いていたクラスメイトの顔が、一気に晴れる。
「はい、理由は二つあります。まず一つ目ですが、皆さんは仮にも特待生。実戦経験が少ないというだけで、ポテンシャルだけでいえばAクラスと同等かそれ以上という点です」
安心させるための嘘ではない。二年前のことではあるけど、私も実際にAクラスの生徒と授業で決闘したことがあるので、それは間違いないでしょう。
「そして二つ目に、このクラスには本来ならAクラスに飛び級できる、カイル君とレイアちゃんがいます。単純な話、この二人の実力は既にAクラス相当なわけです」
カイル君はこのSクラスが好きだから、レイアちゃんは対人戦で力が出せないから、という理由で今のクラスに留まっているだけで、もう二人とも大人顔負けの実力を持っている。
また歴代の大会優勝者は、すべてAクラスから輩出されているので、Aクラス相当の実力を兼ね備えているというのは、優勝の目安の一つになります。
「もちろん懸念点もあります。先ほどから話題に上がってる実戦不足、これは死活問題です。授業とは違って、相手はこちらに敵意をもって攻撃してくるので、まず皆さんは自分の身の守り方を学んでいかないといけません。とはいえ、私も全力でアシストしますけど、この短期間でそれをマスターするのは厳しいと思います」
上げて落としてはみたものの、しかし、それだけではこのクラスの士気は下がらない。
「でも逆に言えば、それさえクリアしちゃえば俺らも優勝を狙えるってことか」
「俺ならどうするか、魔法の詠唱速度を上げるとか……」
「ねぇ、あとで魔法の打ち合いしない?咄嗟の防御に慣れておきたいんだよね」
どうやら他の皆も、その課題をどうするのかそれぞれで考えようとしてくれているようだ。
こういう、メンバーそれぞれが考えられる集団って本当に強いんですよね。私も負けてられませんね……
「こほん、なんかもうそれぞれで問題点を模索してるようですが、最後に一つとっておきの作戦があります」
再び皆の注意が私に集まる。
「とっておきとはいっても、至ってシンプルなんですけど、対戦相手の発表は大会一週間前に行われますよね?なので相手が使ってくる魔法を本番前に予習しちゃいましょう!どんな魔法がくるかわかっていれば、ある程度の心構えができますからね」
しかしどうやら、この私のアイディアには皆は納得がいっていないようだった。
「リリエル、そりゃー予習するに越したことはないけどさ、対戦相手の情報なんてそう簡単にわかるものなの?それにそれってあくまでデータだから、さっきの実戦不足を補うのには向いてないんじゃない?」
クラスメイトから疑問の声が上がるけれど、なに心配はいりません。
「前者に関しては、私に考えがあります。トーナメント表が発表され次第、私が責任をもって速攻で調べてくるので、皆さんは安心して待っていてください。後者に関しては、調べた情報をもとに、私がその対戦相手をトレースしますから、実際に予習試合をしてみましょう」
それを聞いた皆から、今度は驚きの声が聞こえてくる。
「そ、そんなことできるの?」
「えぇ、任せてください。こう見えて屋敷にいる間も毎日欠かさず修練を――じゃなくて、こう見えてオールラウンダーですから」
「まじかよ!すげーな」
私が胸を叩いて返すと、今度は歓声が上がった。……なんだか先ほどから、皆の反応が目まぐるしく変わって少し楽しいです。
再びざわつきだした一同を沈めるように、今度はカイル君が声を張り上げてくれた。
「よし、それじゃあ取り敢えず今日は、各々の課題を見つけるところから始めよう。明日はそれをもとに俺なりのトレーニングメニュー考えてみるつもりだ。それと、わからないことがあったらすぐに俺のところに聞きに来てくれ、その方が俺も寂しくないしな」
「あはは、なによそれ」
「カイルが一番、先行き不安だったりしてな」
やっぱりこのクラスはいいですね。追い詰められた状況にも関わらず、誰一人として希望を失わない。カイル君の統率が上手いというのもあると思うけど、見ていて心がポカポカします。
「とにかくだ、俺らの学院生活を守るためにも、この二週間お互い助けあっていこうぜ!」
「おぉーー!!」
でも私は、このクラスを差し置いて逃げ出してしまったんですよね、皆のレベルの低さに嫌気がさして……
――あれっ?
何考えてるんだろう私、私が学院を離れたのは先輩に勝ちすぎて肩身が狭くなったからのはずじゃ――
「リリエルちゃん、もしよかったらさ、実戦の心得とか教えてもらえないかな?私も少しは皆の役に立ちたいの」
そのレイアちゃんの呼びかけで、私の意識は引き戻された。
「あ、う、うん、もちろんいいよ」
なんだったんだろう、今の……
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