第25章 勝手に殺さないでください
「二年ぶりくらいだよね、本当に久しぶり!またこの辺に越してきたの?」
「え、えーと、そういうわけじゃないんだけど、たまには皆の顔を見ておきたかったというか……」
学院へと歩を進めながら、私はレイアちゃんと他愛ない会話を交わしていた。その際、私の近況を聞いてきたりもするわけですが、当然それをまともに話せるわけもないので、こうして適当に流すことしかできないわけだ。
「そうなの!?だとしたらここまで来るのかなり大変じゃなかった?」
そうですよ、四時起きした後、街中を全力疾走してきました……。なんて言えませんよねー。
「あ、あはは、まぁちょっとね……」
「でも、わざわざ会うために遠くから来てくれたのなら、私すっごく嬉しいよ!」
「う、うん」
レイアちゃんは普段は大人しめで、少し気弱な部分もある子なのだけど、そんな子が私にこうして気持ちをさらけ出してくれている。そんな純情を向けられると、なんだか騙しているような後ろめたさを覚える。
「そういえば、クラスの皆は元気してる?」
これ以上掘り下げられると、いよいよ誤魔化しが利かなくなると思った私は、今度はこちらから話題を振ってみた。しかし、何の気なしに聞いてみたそれは、レイアちゃんの顔に陰りを生んだ。
「そ、そうだね、元気は元気だよ……。なんならリリエルちゃんがいた頃よりも活気づいてるかも」
「ん?なにか不都合があるの?クラスが賑やかすぎて落ち着かないとか」
「そうじゃなくて、その活気づいてる理由っていうのがね……、口で言うよりも、教室の様子を見た方が早いかも」
レイアちゃんは曇った顔色のまま、少し無理に笑顔を作ってくれた。
なんでしょう、すごく気になると同時に、すごく面倒くさそうな予感もするんですけど……
と、そうこう話していると、私たちはようやく学院の敷地内にたどり着いた。
正門をくぐると、そこには手入れされた広大な庭が広がっており、奥に見える校舎は、高級ホテルのような
中庭を進みながら、私は先ほどのレイアちゃんの話からクラスの現状を考察し、一つの仮説を立ててみた。
この時期に活気づくということは、大会に向けて皆張り切っている、というのが一番考えられますね。レイアちゃんの性格からして、あまり争いごとは好まないでしょうし……。よし、ならばまず私は、クラスメイトの戦績が少しでも良くなるようにサポートしていこうじゃありませんか。
とりあえずの目標を立て、校舎内に入った私たち。長く広い廊下を歩いていくが、先ほどからレイアちゃんの元気がない。というか、教室に近づくほど表情が段々暗くなっている。
「なんだか元気ないけど、本当に大丈夫?」
「へっ、な、なにが!?私は全然大丈夫……、だよ」
「ならいいんですけど……」
突然私に話しかけられたことで、一瞬驚いた様子のレイアちゃん。けれどすぐにまた、それまでの暗い表情に戻ってしまった。
まぁ本当に大丈夫な人って、自分は大丈夫とは大抵言わないんですよねー。
その後も話しかける糸口が掴めず、気まずい雰囲気がしばらく続くと、とうとう教室の前にたどり着いた。
学院内の各部屋は、魔法の演習をしても大丈夫なように耐衝、防音対策がされており、この教室も例に漏れず、外から内部の音を拾うことが出来ない。なので、木造の引き戸を開けないとクラスメイトの顔を拝めないわけだけど、正直レイアちゃんの様子を見てしまったせいで、私も不安になってしまっていた。
はぁ、このまま教室の前でたじろいでいても仕方ないですし、もうさっさと開けてしまいますか。
意を決し、ドアノブに手をかける。そして、ドアを勢いよく開け放ち――
「おはようございます!皆久ぶ――」
「もう許さねーぞ、Aクラス共!」
「あぁ、今度の大会で目にもの見せてやろうぜ!」
「そうよ、リリエルちゃんの仇を取るのよ!」
「おぉーー!!」
私の開幕第一声は、クラスの怒号によってかき消された。
えーっとこれは、元気というか、殺気で満ち溢れてるんですけど……。というか、ちょっと待ってください……
「なんで私死んだことになってるんですか」
ここでようやく、クラス一同の注意が私に一斉に向けられる。けれど、皆が取った反応は私が予想していたものとは違うものだった。
「えっ、なんでいるの?」
「お前、生きてたのか」
「も、もしかして幽霊的なやつとか……」
皆が私に向けてきたのは困惑と驚愕。いやまぁ確かに、皆少なからず驚いてくれるとは思っていたのですが、今回のは、いちゃいけない人がいるみたいな驚き方をしている。
「ちゃんと生きてますし、化けて出てもいません。誰ですか、そんな根も葉もない噂を広げたのは」
私が呆れ気味に尋ねると、クラスの視線が今度は、教室の端でうずくまっている一人の男子生徒に向けられる。
「ねぇ?これはどういことかなー、カイル君?」
私が教室に入った瞬間、一目散に縮こまったその男子生徒に詰め寄ると、逃げられないと悟ったのか、その男子は急にバッと立ち上がった。そしてこちらに振り返り、
「おぉ、誰かと思えばリリエルじゃん!おっはー!!」
「
人懐こそうな笑顔で、白々しいくらいに気持ちのいい挨拶をしてくれたのは、
「ふふっ、ノリツッコミとは……、以前よりもツッコミの切れが上がっているな」
「なんでそんな挑戦的な姿勢なんですか。いいから早くわけを――」
「よーし、久しぶりのリリエルに歓迎会を開くぞー!」
相も変わらず白を切るカイル君。しかし、いい加減他の生徒も耐えかねたのか、皆口々にカイル君を言及しだした。
「おい、どういうことだよカイル。俺らにもちゃんと説明しろよ」
「そうだよ、リリエルちゃんがAクラスにいじめ殺されたって言ったのはカイルでしょ!」
な、なんですかそれ……。確かに目の敵にはされていたけど、別にそこまで酷い仕打ちを受けていたわけではないんですけど……
皆から詰め寄られ、泣きそうになっているカイル君は、子供が言い訳するような口調でこう話した。
「だ、だって……、その方がクラスの士気が上がると思ったんだもん」
――はっ?
クラス全員がそう思った。
一瞬教室内が静寂に包まれるが、次の瞬間には、クラス内はそれまで以上の喧騒で埋め尽くされた。
「お前最低じゃねーか!」
「勝手にクラスメイト殺すな!」
「どんな心境でそれやろうとしたのよ」
そりゃそうなりますよ……。仕方ありません、このままじゃ埒も明きませんし、そろそろ助け船を出しますか。
そう思った私は、他の皆をかき分けて、半泣きのカイル君に話しかけた。
「皆も言ってますけど、勝手に人のこと殺さないでください。それで、どうしてそこまでしてクラスの士気を上げたかったんですか?」
「ぐすっ、き、聞いてくれるのか?」
「はい、私も気になりますし」
あっという間にクラスの信頼を完全に失った状態から、救いの手が差し伸べられたことで、少し落ち着いた様子のカイル君。
「事の発端は、リリエルが学院に来なくなってからのことなんだけど……」
そう始めたカイル君は、クラスの異様な高揚の理由、並びに私がいない間の学院内での出来事を話してくれた。
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