追放されたんだけど、指摘が的確すぎてざまぁとか無理です……

オウカシュウ

第1話

「エルク、君にはこのパーティーを抜けてもらいたい」


 ああ…この瞬間を待っていたんだ……!



 俺の名前はエルク、18歳。名字のない平民ただのエルクだ。

 だが俺は普通ではなかった。前世の記憶を持っているのだ。


 を思い出したのは、6歳の時だった。特に頭をぶつけたとか、命の危険を感じたとかではない。家族で夕飯を食べている時、本当に前触れもなく思い出したのだ。


 しかしその後が問題だった。俺は興奮のあまり、


「異世界転生、キターーーーーー!」


 と叫んでしまったのだ。


 是非とも想像してみてほしいのだが、食事中にいきなり自分の子供がそんな事を叫んだら、どう感じるだろうか?

 因みに俺なら、頭の病院に行かせることを決意するだろうな。

 だがそれは俺が前世の記憶を持っているからこそ、そういう病気もあるよね、程度で済ませられるのだ。

 お世辞にも医療が発達しているとは言えないこの世界では、『悪魔憑き』と呼ばれ、するのが当然とされていた。


 その事を思い出した俺が見た家族の表情は今でも忘れていない。

 (殺される!)と、この世界で初めて思ったのがあの時だった。


 その時思わず唱えた、有名RPGの転移呪文により、この国へ転移。

 突然目の前に転移してきた子供そんな俺に何かを感じたのか、拾って育ててくれたのが、この国のギルドマスターだった。

 その後、落ち着いた俺は恩を返すため、そして前世の憧れだった『追放ざまぁ』を見る為に冒険者になることを決めたのだった。


 そして修行とクエストの日々を繰り返し10年、Aランク冒険者になった頃に魔王が復活し、勇者パーティーへの加入依頼が来た。

 それも当然で、それまでの最年少記録が20歳だったにも関わらず、16歳でAランクになったのだ。

『勇者と同年代の天才魔法騎士』、それが俺への評価だった。


 そして勇者と出会い、意気投合した俺は勇者パーティーへと加入した。

 その時は鼻が伸びていた事もあり、『追放ざまぁ』の事なんてすっかり忘れていたのだが……。


 冒険をしていく内に仲間も増え、『最強の盾』パラディン、『魔法の頂』賢者、『精密』アーチャー、『漆黒の猟犬』スカウト、これに『最強』勇者と『天才』魔法騎士を加えた6人パーティーになっていた。


 そして今日、魔王城の手前のラスト村へ結界を張り、魔物を間引きした後、ギルド内の専用部屋へ帰ってきての第一声が冒頭の部分である。



「おいおい、冗談だよな……?」


 湧き上がる喜びを胸中にしまいこみ、あくまで冗談なんだろ?といった苦笑いを浮かべる。

 だが、冗談などではないのは分かっている。

 薄々思ってはいたのだ。俺だけ成長していない、と。

 勿論、全くしていない訳ではない。この2年で最上位であるSランクに上がったし、通常のドラゴン程度なら何体でも屠れるレベルにまで強くなっている。

 だが、魔王城が近づくにつれではまともに戦えなくなっていた。


 パラディンのように盾になれるほど固くない、賢者のように強力な魔法を使う事も出来ない、アーチャーのように弱点だけを的確に攻撃できない、スカウトのように気配を殺しきれない、そして勇者のような火力もない、上位の魔物相手では、俺はただの器用貧乏だったのだ。


 それでもまだなんとかギリギリ戦えてはいた。それは余りにもみじめで泥臭く、華やかさの欠片もない戦い方であったが。

 しかし今日、俺は魔物の一撃で気絶してしまったのだ。目が覚めたら帰りの馬車の中だった。パーティーのメンバーは全員が心配してくれてはいたが、俺はその時からずっと喜びを噛み締めていた。

 ああ、これで『追放ざまぁ』が出来る……と。


 まともに戦えなくなってからはずっと感じていたのだ。

 転生者、勇者パーティー最初の1人、最初は強かった、今では足手まとい、これもしかして俺が追放ざまぁする側なのでは?と。


 一応勘違いされないように言っておくが、俺はこのパーティーに感謝こそあるが恨みなどはない。

 全員いつも心配してくれているし、雑用を全部やろうと思っても手伝ってくれるし、修行さえ見てくれたのだ。

 だが前世の憧れだった『追放ざまぁ』が出来ると思ったら嬉しくなってしまう気持ちもわかってほしい。

 なので、ざまぁと言っても精々俺が魔王を倒して、俺がもう倒したやったぜって自慢するくらいを考えている。


「残念だけど、冗談なんかじゃないんだ……」


 勇者はその端正な顔を歪め、悔しそうな表情をしながら俺に告げる。

 こんな俺なんかのために心を痛めてくれている事に申し訳なさを覚えつつも、これは俺が魔王を倒すからチャラにしてくれと心の中で謝っておく。


「それは俺が一撃で気絶してしまったからか?だったらもっと強くなるから……!」


 わかりきった確認をして、一応縋れるだけ縋ってみる。そんな簡単に追放されたら覚醒するものもしないだろうし。

 だが勇者は首を横に振ると更に続けた。


「理由は合ってるよ……。それにエルク、君はもう強くなれないんだ……」


「は?」


 思わず素が出てしまった。強くなれないなんて、何でそんな事言われなくちゃいけないんだ。


「誰にも伝えてなかったんだけどね、ボクは強さを数値化できる特殊な眼を持っているんだ。ボクはこれを鑑定眼って勝手に呼んでるんだけど」


「ああ、それで?」


 強くなれないと言われて少しイラついてしまったが理由も話してくれるようなので先を促す。


「この眼では現在の能力のほかに、その人の限界値も見えるんだ。例えば僕なら200/999、賢者は190/990、パラディン、アーチャー、スカウトは180/900、そしてエルクは200/200。更に細かく数値で見ることも出来るんだけど、それもエルクだけは全部限界まで達しているんだ。これが、ボクがエルクは強くなれないって言う理由だよ」


 そんな……俺がもう限界まで強くなっただって……?

 余りの衝撃に思わず言葉が漏れる。


「そんな……」


「信じたくない気持ちもわかる。だけど本当の事なんだ」


 わかっている。コイツがそんな事で嘘を言うとは思っていない。だからこそ俺は衝撃を受けたんだ。


「だけどさ、例えば今日俺が攻撃された奴が特別強かったとかそんな事はないか……?」


 この時の俺はもう『追放ざまぁ』の事なんて忘れて、ただコイツらと離れたくないという一心で縋っていた。


「確かに今日のあいつは特別強かった「だったら!」」


 思わず途中で口をはさんだ俺を見て勇者は首を横に振る。


「あの後先の森まで偵察に行ってたんだけど、あいつらそこでは群れで居たんだ。それにあいつらの群れを襲って食べてたやつも」


「……!」


 口から息が漏れる。あいつが群れで居た上に、あいつの群れを襲って勝つ奴までいただって!?


「さっき細かい数字が見えるって言ったけど、群れを食べてたやつはアイツの倍以上の攻撃力と、4倍の防御力を持ってたんだ。あんなのにエルクが殴れたら次は間違いなく気絶じゃすまないよ……」


 仲間の死を想像してしまったからか、勇者の目に涙が浮かぶ。

 しかしそれを拭うと更に勇者は続けた。


「だからお願いだエルク、このパーティーを抜けてほしい。勿論装備品や消耗品も渡すし、お金も払う。理由についてもパーティー側都合によるものとしてくれて構わない。お願いだ、ボクは君に生きてほしい」


 そういうと勇者は俺に頭を下げる。それに合わせて他のメンバーも頭を下げた。パラディンなんかは情に厚いからか泣いているし、賢者とアーチャーは寂しそうな顔をしている。スカウトは特に表情は変わっていなかったが、強く拳を握っていた。


 そもそも俺が弱いのが悪いのだ。なのにそんな事は言わず、守れないことを悔しく思ってくれて、頭まで下げられているのだ。

 こんな事をされてまで、俺は縋ることは出来なかった。


「分かった、俺はパーティーを抜けるよ」


 俺がそういうと、全員が顔を上げた。


「ただし、最後の村までは転移が必要だし、そこまでは送らせてくれよ?」


 そう俺が笑みを浮かべながら言うと、安心したのか全員が笑みを浮かべながら頷いてくれたのだった。



 そして勇者パーティーの冒険再開当日、俺はラスト村まで全員を連れて転移していた。


「これで俺の最後の仕事は終わりだ。今この時をもって、俺はパーティーを抜けさせてもらうぜ!」


 俺が明るくそう宣言すると勇者もうなずいて、


「パーティーの離脱について、承認するよ。これまで…ありが……と……」


 言ってる途中で勇者が泣き始めてしまった。こうならないためにわざと明るくしたのに、こういうのは苦手だから勘弁してほしい。


「あー、ほら泣き止め泣き止め。せっかくなんだ、笑顔で別れようぜ。」


「うん……」


 俺が勇者の顔を拭いてやると勇者も笑みを浮かべる。そうそう、笑顔で頼むぜ。

 そして全員に挨拶をして、森へ向かい遠くなったそいつらの背中に叫んだ。


「絶対生きて帰って来いよ。死んだら俺を追放したからだざまぁって笑ってやるからな!」


 それが届いたかは分からないが全員が右手を挙げた。

 その時の俺はちゃんと笑っていたと思う。


「何だよ、ここだけ…雨でも降った……か?」


 俺は顔を拭うと右手を挙げて村の中へと戻っていった。

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追放されたんだけど、指摘が的確すぎてざまぁとか無理です…… オウカシュウ @oukasyuu

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