第3話 犬養桜は、気が抜ける
そんなこんなでようやくやってきた土曜日。
今日は大体3時間を目途に朝からゲーム配信をしていた。
最後のミッションをクリアするには、まとまった時間が必要になる。
だからこそ今日は長丁場での配信時間を組んでおり、それは事前にSNSでも周知していた。
そして今日の午後からは、久々に吉谷と買い物に行く予定だ。
勉強ではなく純粋にふたりで遊べる時間が、たまらなく嬉しかった。
『はぁーい、皆さんこんにちは!心は狼、見た目は子犬。真面目な狂犬、犬養桜でーす!今日は午後から予定があるんだけど、それまではまたゲームの続きをしていきたいと思います。今日はね…いよいよあのステージですよ……。このゲームもようやく終盤!すこーし長丁場になるけどお付き合いお願いします』
ゲームをしている間は画面からコメントは非表示にしているけれど、手元のコメント欄では見えている。
流れる速度で見ている側の興奮が伝わって来た。
お、吉谷もいる。
それだけで更にやる気が上がったのは内緒だ。
『そうか……、世界がこんなになっちゃったのにはそんな理由があったんだね……』
ゲームをクリアし、明かされた事実に、視聴者達と感想を共有する。
画面上で流れるエンドロールを見ながら、湧き出てくる自分の様々な感情を、
『はぁ…、だいたい3時間におさまったね。みんなありがとう』
やり切った感も出て、感覚もなんだかふわふわしている。
心地よくもあり、気怠い感じだ。
改めて今日は様々なアドバイスをしてくれた視聴者に感謝を伝えたい。
コメント欄も、『面白かった!おつかれ~』『回を重ねるごとにさくたんのゲームスキルがあがっていてびっくりした』とどうやらそれなりに楽しんでくれたようだ。
『あはは、"明日から太もも見れなくなっちゃうから寂しいね"って?気軽に見れる太ももなら、クレアさんが見せてくれるからな~』
思わずそんなことを言うと、コメント欄がやや騒がしくなった。
先程までが小川のせせらぎのような穏やかな流れのコメント量だとしたら、今は大雨で増水した激流のように、一斉にザァーッと動き始めた感じ。
いま配信していたゲームの主人公の背格好が、どことなく現実のクレアさんに似ていたこともあって、するっと口から出てしまった。
案の定みんなその話題に食いついてくるけど、ほんとみんなクレアさんのこと好きだよね。
不思議な気持ちで、コメント欄に放り投げられる質問に答えていく。
『あー違う違う、コラボしたり遊んでたら、あの人が勝手に見せてくるだけだよ。お泊りしたときヤバかったもん。ああ、私からは触らないよ。触られはするけど』
『え?ん~、まぁ、結構きわどいとこ攻めてくるよね…、あの人。どこを、とは言わないけど』
みんな、意外とこの話題掘り下げてくるじゃん。
ゲームの余韻どこいった。
そう思いながら時計を見ると、思っていたより時間が過ぎている。
ヤバい。
『っととと。いつの間にか雑談配信みたいになっちゃってるじゃないのよ。私これから予定があるんだってば!そしたらまたね~!次回の配信予定SNSにあげてるから見てね!チャンネル登録がまだの人は、してくれたら嬉しいな。バイバイ!』
ぷつん、と配信を切る。
気が抜けて雑談をしていたからか、予定より40分以上オーバーしている。
余裕をもって配信時間を組んでて良かった。
吉谷も配信をおそらく最後まで見ていただろうけど、それでこちらが遅れてもいい理由にはならない。
向こうは私が犬養桜だって知らないんだから。
「んっ、んむぅぅぅ~~~~~……」
大きく伸びをして席を立つ。
ぱきぱきと背骨が鳴り、背中の筋がゆっくりと伸びていく。
「さて、じゃあ準備しますか」
その一言で切り替えて、急いで身支度を始めた。
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