24 レイプ
「うっ……」
起きなければならないというよく分からない危機感によって、朦朧とする意識を覚醒させていく。
ぼんやりとした視界には尖らせた唇が接近してくる光景が映り込んでいた。
「────ッ! いやああああああああああ!!!!!!!」
途端に明瞭になっていく景色。
急速にフル回転した脳が自分がどういった状況に置かれているのかを理解させてくれた。
「あらら、起きちゃったかー。せっかく王子様のキスで起こしてあげようと思ったのに」
この世の醜さ全てをかき集めたようなことを宣う、なおも唇を尖らせた茂木先輩。
一方怜輔にだって捧げたことのない唇を今まさに奪われようとした私はというと、後ろ手に縛られ倉庫か何かのような暗い室内に転がされていた。
「先輩、以前から危なっかしい人だとは思っていましたが、まさか犯罪に手を染めるほどとは……」
目の前のクソ野郎を皮肉りながら意識が途絶える前の記憶を掘り返す。
たしかレイフ君が何かを伝えてこようとして、けどこいつに遮られて……。
ダメだ。こいつ以外の情報が無い。
何のために誘拐されたのか皆目見当も付かないのだ。
まさか私を好きにするためだけに複数人で誘拐してこんな場所に連れてくるなんてこともないだろうし……。
ふと嫌な想像が脳裏を掠める。
「集団レイプ……」
思わず口をついて出たその単語は目の前の男をいたく刺激したらしく、突然血相を変えながら襲いかかってきた。
「集団レイプ!? とんでもない! 君は僕のものになるというのにどうして他の男に貸さないといけないんだ?」
「いやあああああああ、離れて! 寄ってこないで!」
今にも抱きしめてきそうな勢いで接近される恐怖に、話など聞いていられる余裕などない。
「嫌だなあそんな反応をされたら。ねえ、詩音。僕はこれからちゃんとした地位を手に入れられるんだよ? 今までのようないつまでも留年しては就活に失敗し続けてた僕とは違うんだ。まさに一発逆転てやつさ! だから安心してよ。君には不自由させないから」
「いやああああああああ! 本当気持ち悪い!」
頼むから耳元でささやくな。息を吹きかけるな!
怖気に満たされながらも声を振り絞る。
「あなたの就活事情とか知ったこっちゃないのよ! 別に地位のある男をアクセサリーにしたいわけでもない。金が欲しいわけでもない。なんでそんなこともわからないの?」
第一、 金なんて今十分にある。これ以上望む必要が一体どこにあるというのだろう?
「でも実際君の婚約者は地位も金も──」
本当に野暮な男に唾を吐きかけて遮る。問いかけたこと自体が間違いだった。
「怜輔にそんなものを求めて婚約してない! 自分の狭い視野で勝手に私の人物像を作り上げて押し付けないで!」
なんでこんなにイライラさせられなければいけないんだ。
「一番私のことを理解してくれてっ、それを基に私が過ごしやすいように振舞ってくれるっ、……それだけで十分なのよ」
やっと気づいた自分の大切な場所。でも気づいたときには既に失っていた場所。
絶対取り戻すと誓ったのに、誓ったそばからこんな状況に簡単に陥れられて。
虚しさと悔しさが綯い交ぜになった爪が手のひらを抉る。
なんでこんな目に合わないといけないんだと恨みを込めた目で屑野郎を見上げた。
そんな私の気持ちを知ってか知らずか──というか興味もないのだろう、この屑野郎は自分の言うとおりに動く人形が欲しいだけなのだ──にやけながら見下ろす顔が目に入り、すぐさま視界に入れたことを後悔させられた。
「そうか、じゃあ僕も君のことを理解、それも君の婚約者が知らないところを理解すれば一番になれるわけだ」
────は?
何言ってんだという言葉が喉元から出そうになったとき、足をつかんで股を開かせようとする動きに私はこの男の思考を理解した。
「何が理解よ! それを理解されてどうしてあなたが私を一番理解してくれる男だと思えるのよ!」
「ほら、気持ちいいところを知ればこれから上手くやっていけるじゃないか。夜の営みが一番夫婦仲が冷える原因だともいうし」
「そんなところを理解されて嬉しいと思えるのは元から好意を抱いている相手しかいないわよ!」
これじゃ結局最初の予想と変わらないじゃないか。
私の勘は正しかったと喜ぶべきか、勘を正解にしてしまった自分の受け答えを悔やむべきか。
誰があんなトンデモ思考回路をくみ取って完璧な受け答えをできるというのだ。
正解があれば是非ともご教授願いたい。
「白いパンツか。いいねえ、清楚で詩音らしい」
いくらガリガリでも相手は男だ。自由を奪われた私が敵う筈もなく足を強引に開かされる。
段々分かってきたが、これでも褒めているつもりなのだろう。
荒い鼻息と褒めるポイントと雰囲気作りが大幅な減点対象で、ただただ気持ち悪いだけだが。
──あーあ、こんなところで私の純潔は散らされてしまうのか。
今更抵抗したところでどうにもならないだろう。
私の誘拐に関わった連中も近くにいるはずだ。逃げだせる余地がない。
私の諦めを見て取ったのか、目の前の強姦魔は私の下着に手をかける。
「ははは、ついに夢にまで見た光景が──」
「詩音ッ!!!!」
────ドンッ
突然聞こえたレイフ君の声に喜ぶよりも、目の前の男が血を吹き出しながら倒れていく光景から目が離せなかった。
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