第31話
光も真里菜も死んだ。
2人とも、死んで当然の人間だったからだ。
あたしは布団を頭までかぶって目を閉じた。
何度キツク目を閉じて見ても、光と真里菜の死に顔が浮かんでくる。
残り一人は咲だけだ。
咲が死ねば、あたしと美緒の復讐はすべて終わる。
「そうでしょう? 美緒……」
あたしは誰もいない部屋の中で、美緒に話しかけたのだった。
☆☆☆
翌日の学校内は騒然とした空気が流れていた。
昨日の1日で光と真里菜の2人が死んだ。
しかも、光は学校のトイレで自分のお腹を切り裂いて死んだのだ。
その異様な出来事を知らない生徒は、もうひとりもいなかった。
光が死んでいたトイレは今は封鎖されていて、誰も使えないようになっている。
「真里菜、ストーカーに殺されたんでしょう?」
そんなひそやかな声が聞こえてくる。
あたしは黒い帽子の男を思い出していた。
あの男は真里菜を殺害した後逃走したが、すでに捕まっていた。
1度目のときに捕まらなかったから、今度もうまく行くと思っていたのかもしれない。
真里菜はアルバイトを始めてまだ数日しか経過していないから、もしかしたらそれ以前から真里菜に狙いを定めていたのかもしれないそうだ。
そんなときに真里菜がアルバイトを始めて、一人で帰宅する時間が増えた。
犯人の男は今がチャンスだと思って、行動に移したのだ。
どっちにしても、美緒の絶対様がそういう運命を作りだしたのだと、あたしは確信していた。
それからあたしは咲へ視線を向けた。
今日も休むのかと思っていたが、咲は今日登校してきていた。
友人が2人も死んでしまったから、その話をちゃんと聞きにきたのかもしれない。
右足はまだ包帯で固定されていて、よくなっているようには見えなかったから。
それから先生がやってきて、光と真里菜が死んだことが伝えられた。
わかる限りの詳細が説明されている間に、咲はずっとうつむいた状態で顔を上げなかった。
「今日は午前中授業で終わりです。部活動も委員会も中止なので、速やかに下校するように」
先生は義務的な声でそう言うと、教室を出て行った。
一見冷たい印象を受けたけれど、自分が受け持っているクラスの生徒ばかりに不幸が起きて動揺しているのだろう。
あえて義務的な態度をとることで、冷静になろうとしているのがわかった。
「今日は午前中従業で終わりだって! どこか遊びに行こうよ」
前の席の子がすぐに声をかけてくる。
2人も死んでいるというのに、その表情にかげりはない。
2人の日ごろの行いがこんなときに出てきているのだ。
他のクラスメートたちも今朝登校してきたときに比べると随分と落ち着いているように見えた。
そんな中で浮いているのははやり咲の存在だった。
仲良し3人組の中の2人が死んでしまったのだから、次は咲かもしれないとみんなが意識しているのがわかる。
「ごめん。さすがに今日は早く帰るよ」
「あ、そっか。そうだよね。ごめんね」
慌てて頭を上げる女子生徒にあたしはうなづいて見せた。
「ちょっといい?」
咲があたしに声をかけてきたのは1時間目の授業が終わった頃だった。
今日はあと2時間授業を受ければ帰れるので、クラスメートたちはいつもよりも騒がしい。
さっきあたしに声をかけてきた生徒は、ほかに遊ぶ相手を見つけたようだ。
みんな、その程度なのだ。
真里菜と光が死んだって日常が劇的に変化するわけじゃない。
憎まれていた2人だったから余計にそれが浮き彫りになっていく。
「なに?」
あたしは咲を見上げた。
友人を2人失った咲の顔色はとても悪い。
それに、哀れに感じられるくらい、咲は誰からも声をかけられなくなっていた。
「外で話がしたいの」
「でも、もう次の授業が始まるよ?」
休憩時間は残り5分ほどだ。
今から教室を出て離す時間はない。
しかし、咲はゆずらなかった。
「いいから、来て」
そう言うと、あたしの腕を引っ張って強引に歩き出した。
足を骨折しているとは思えない力に根負けして、咲の後を歩く。
たどり着いたのは3階の渡り廊下だった。
もう授業が始まる時間だし、あたりには誰の姿もない。
渡り廊下の窓は換気のために開けられていた。
「話ってなに?」
あたしは窓から吹き込んでくる風に前髪をおさえながら、咲に聞いた。
咲は人を射抜くような鋭い視線を向けてきて、たじろいでしまいそうになる。
しかし、どうにか見返すことができた。
「どうしてあんただけなにもないの?」
その質問の意味がわからなくて、あたしは首をかしげた。
咲は一歩近づいてくる。
「あたしたちはみんなで絶対様を作って、絶対様にお願いをした。それなのに、どうしてあんただけ無傷?」
聞かれてあたしは一瞬視線をそらしてしまった。
「そんなのわからないよ。みんなの怪我とかが絶対様のせいだって思っているの?」
「とぼけないでよ!」
咲が壁を殴りつけた。
「あたしたちの共通点はそれしかない。その中であんただけなにも起こってないんだから、あんたがなにかしたに決まってる!」
もう授業が始まっているというのに、咲が容赦なく叫び声を上げる。
あたしは思わず両手で耳を塞いでいた。
至近距離で叫ばれると鼓膜が痛い。
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