第24話

☆☆☆


あたしが考えていた通り、翌日になると光の顔にニキビが出現していた。



それも1つや2つじゃない。



顔の半分ほどを多い尽くすくらいのニキビだ。



「それ、どうしたの?」



美緒の復讐だと知りながらも、そう声をかけずにはいられなかった。



マスクで顔をかくしていた光は涙目になって「昨日帰ったらひとつニキビを見つけて、それで薬を使ったんだ。それが悪かったみたいで、悪化した」と、答えてくれた。



今までそんなこと一度もなかったのにと、光は付け足した。



やっぱり美緒はどこかにいるんだ。



焼け跡から遺体は発見されていないし、3人への復讐はまだ続いている。



あたしは舌なめずりをして考えた。



美緒はどこにいるんだろう?


☆☆☆


そして、放課後になっていた。



「ちょっといい?」



そう言って声をかけてきたのは咲だった。



咲の後ろには真里菜と光もいて、みんな真剣な表情を浮かべている。



瞬間、いやな予感がした。



少し前までこの3人にイジメられていたから、この雰囲気も何度も経験してきたことだった。



なにかされる。



咄嗟にそう考えて、あたしは左右に首を振っていた。



「ごめん、今日は予定があるから」



早口にそう説明して席を立つ。



しかし、光があたしの腕を掴んでいた。



そして咲が短く、低い声で言う。



「少しだけだから」



その声に感情はこめられていなくて、背筋がスッと寒くなった。



3人につれてこられたのは校舎裏だった。



イジメに遭っていたときもここには何度かつれてこられたことがある。



久しぶりに立つその場所にいやな記憶がよみがえってくる。



「なんであんただけ無傷なわけ?」



嫌な記憶の中に溺れそうになったとき、咲がするどい視線をあたしへ向けてきた。



「え?」



「あんたも絶対様にお願いした。なのに、どうして無傷なの?」



「それは……」



素直な返事なんてできなかった。



絶対様は今、あたしが幸せになるために動いているのだから。



「わからない」



あたしは小さな声でそう答えて、下を向いた。



これが咲の望む答えじゃないことくらいわかっていた。



適当なことを答えたらどうなるかも、もう十分体で理解していた。



それでも、言うことはできなかった。



「なにか隠してんじゃないの?」



真里菜に言われてあたしはうつむいた。



そして左右に首をふる。



「もしかして、願いが曖昧だったからじゃない?」



そう言ったのは光だった。



あたしは驚いて光を見る。



「ナナの願いは幸せになることだったよね? それってあたしたちに比べてハッキリしてないから、それで災いは降りかかってないのかも?」



首を傾げながら見当違いなことを説明しはじめる光。



あたしはそれに便乗して大きくうなづいて見せた。



「そ、そうかもしれない! 曖昧な願いだからだよ!」



そう言うと咲はあたしから一歩離れた。



本当かどうか見極めることなんてできない。



それに、あたしに災いが降りかかっていないことよりも、どうして不幸になりはじめたのかを探るほうが肝心だ。



だけど咲たちは目先のものばかりを見ている。



「そうなのかな」



「絶対様の考えることなんて、あたしたちにはわからないからね」



あたしは言い含めるように言った。



咲はまだ納得した様子ではなかったが、「そっか、わかった」とうなづき、あたしに背を向けた。



どうやら話は終わったらしい。



帰っていく3人の後姿を見送って、あたしはホッと胸を撫で下ろしたのだった。


☆☆☆


美緒はどこにいるんだろう?



絶対にまだどこかにいるはずだ。



そう思いながら自分の部屋をあけた瞬間、部屋の真ん中に誰かが立っていて悲鳴を上げそうになってしまった。



咄嗟に両手で口を塞いで自分の悲鳴を消していた。



そこに立っていたのは美緒だったのだから。



「美緒!」



カバンをベッドに投げ出して美緒に近づく。



美緒の顔色は悪く、目は灰色をしていてあたしが目の前に移動してきても反応を見せなかった。



あたしは美緒の体を抱きしめるようにしてベッドへと移動させた。



そこに座らせてから「ちょっと待っていてね」と声をかけて、おお慌ててでキッチンへと向かった。



あの火事のなかどうやって逃げ出したのか。



今までどこにいたのか。



そして、この家にどうやって入ってきたのか。



聞きたいことは山ほどある。



全部を聞くことができるかどうかわからないけれど、あたしはコップに水をそそいで自室へと戻った。

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