第23話
咲の事故が美緒の復讐のひとつだとすれば、美緒は死んでいないことになる。
廃墟から死体が発見されなかったこともあるし、美緒は絶対様としてどこかにいる可能性があるかもしれない。
そんなことを考えて1日を過ごしていると、昼頃には咲が登校してきた。
右足を包帯で巻かれて固定されているが、それ以外に大きな怪我はないようだ。
「咲」
気になって声をかけたけれど、咲はあたしを無視して自分の席へ行ってしまった。
無視いたというより、なにか怯えているような気もした。
事故に遭ったばかりだからそれも仕方ないことなのかもしれない。
だけど咲だって気になっているはずだ。
美緒がいたはずの廃墟から、誰の痛いも出なかったことを……。
翌日は学校が休みの日で、あたしは自宅でゴロゴロと時間をつぶしていた。
両親とも今日は休日出勤で、特にやることもない。
何度か火事について調べてみたけれど、やはり美緒のことはどのニュースにも書かれていなかった。
昼近くになり、昼ごはんを買うためにあたしは1人で家を出た。
近所のコンビニまで行く予定だったのだけれど、気になって廃墟の近くまで行って見ることにした。
丘の下まで来ると廃墟の周りに数人の警察官の姿があることに気がつき、足を止めた。
出火の原因を調べているのかもしれない。
廃墟は大きな柱を除いてすべてが黒く焦げていて、見る影もない。
そんな状況に人がいたら丸焦げになって遺体発見にも時間がかかるかもしれない。
あたしはそう考えて、廃墟からそっと離れたのだった。
それから予定通り近くのコンビニに向かった。
店内に入った瞬間見知った顔がレジ打ちをしていてあたしは「あっ」と声を上げた。
しかし、相手は気がついていないようだ。
胸には三枝真里菜とネームがつけられていて、小さな初心者マークが張られている。
今日が初出勤なのかもしれない。
大金を手にすることができなかった真里菜は、結局アルバイトで地道にお金を稼ぐことにしたようだ。
咲と一緒にいることでおごってもらえていたみたいだけれど、そうするためには万引きをして転売する必要があった。
真里菜はそれからも足を洗ったのかもしれない。
最初から全うに働けばよかったのに。
そう思いながらお昼ご飯を何にするか考えて店内を歩く。
その時、ドリンクコーナーからレジへ視線を向けている男がいることに気がついた。
視線を追いかけて見ると、どうやら真里菜を見ているらしい。
男は40台半ばくらいで黒い帽子を深くかぶり、黒いズボンと上着という姿だ。
真里菜をみながらズボンの位置をひっきりなしに直している。
かと思えばズボンのポケットに手を入れて、なにかをまさぐるしぐさをしはじめた。
その行動に気味の悪さを感じてあたしはすぐにその場を離れた。
もうお昼を買う気もなくなって、そのままコンビニを後にしたのだった。
☆☆☆
いくらニュース番組を気にして見ていても、もう廃墟の火災について取り扱っている番組はなかった。
火災の原因がわかればまた少しは話題に上るかもしれないが、それまではなにもなさそうだ。
モヤモヤとした気分を引きずったまま、次の登校日になってしまった。
学校までの道のりであたしは丘の上にいた警察官たちの姿を思い出していた。
何人かで捜査していたから、火災の原因が不審火だとすぐにわかることだろう。
それじゃなくてもあそこは廃墟で、火の原因になるようなものはほとんどない場所だ。
もしも咲が火をつけたとバレたら、自分の身も疑われることになる。
そうなったらどうしようと、冷や冷やしている。
しかし、そんな気分は教室へ入った瞬間吹き飛んでいた。
席に座っている真里菜が、腕をギプスで固定しているのだ。
真里菜の顔色はひどく悪くてうつむいている。
どうしたのかと思いながら自分の席につくと、すぐ前の席の女子生徒がはなしかけてきた。
「おはようナナちゃん」
「お、おはよう」
こうした挨拶もだんだんと慣れてきた。
「あれ、かわいそうだよねぇ」
女子生徒は真里菜へ視線を向けて、小声て言った。
どうやらなにか知っていそうだ。
「なにがあったの?」
「昨日バイト帰りに襲われたんだって」
「襲われた?」
「そう! 知らない男にしつこく付きまとわれてたみたいで、逃げようとしたら腕を掴まれて折られたんだって」
その言葉にあたしは昨日コンビニで見かけた40代くらいの男を思い出していた。
まさか、あの男……?
あの気味の悪い男ならやりかねないかもしれない。
それにしても咲が事故にあった次は真里菜が暴行されたわけだ。
これはもう偶然じゃなかった。
順番も、絶対様にお願いした順番通りなのだから。
「美緒の復讐」
あたしは小さく呟いた。
「え、なに?」
「ううん、なんでもないよ」
あたしはそう答えて、かすかに微笑んだのだった。
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