第22話

☆☆☆


ありえない。



美緒が死んだなんて、そんなことありえない。



どうにか自宅に戻ってきたあたしは自分のベッドの中で、頭まで布団にかぶさっていた。



どうやってベッドに入ったのか全然覚えていない。



ただ目の真に広がっているのは燃え盛る廃墟の映像ばかりだ。



「美緒、美緒」



ぶつぶつと呟き、布団の中でスマホを操作する。



さっきから美緒にメッセージを送っているのに返事はない。



既読すらつかない状態だ。



どうして?



ねぇ、どうして美緒からの返事がないの?



どうして電話にも出てくれないの?



焦燥感が胸に広がっていく。



早く美緒に連絡しなきゃ。



あの廃墟にいたら危ないって伝えなきゃ。



それなのに、伝わらない。



外から消防車のサイレンが聞こえてきたとき、あたしは知らない間にスマホを投げ出して震えていた。



きっと、なにもかもがバレてしまう。



火事の中から美緒の死体が出てくれば、全部全部バレてしまう……!



あたしは枕に顔を押し付けて、悲鳴を上げたのだった。


☆☆☆


翌日、あたしは寝不足のままリビングへ向かった。



すでに朝食の準備はされていたけれど、とても食欲はなかった。



「今日の新聞、なにか書いてあった?」



あたしはリビングのソファで新聞を広げている父親へ向けてそう聞いた。



昨日の火事のことが出ているはずだった。



「あぁ。あの丘の上の廃墟が燃えたみたいだ」



そういわれて心臓がドクンッとはねた。



一気に目が覚めていく。



「そ、そうなんだ」



ぎこちなく返事をして、テレビニュースに視線を向ける。



ニュース番組はちょうどローカルに切り替わったところで、地元のニュースキャスターが原稿を読み上げ始めた。



《昨夜○○町の一軒やが全焼する火事がありました。周囲に民家はなく、火は1時間後に消化され、けが人はいませんでした》



画面一杯にあの廃墟が映し出されて、呼吸が止まってしまうかと思った。



丘の上で燃えている様子に圧倒される。



廃墟の周辺で行き来する消防隊員たちの姿にあたしは視線をそらした。



でも待って?



今のニュースなにか辺だった。



疑問を感じたあたしは父親がテーブルに置いていった新聞を開いてローカル版を確認した。



そこには昨日の火災のことは書かれていたけれど、怪我人は出ていないと書かれているのだ。



さっきのニュースでもそうだ。



怪我人はいないと言っていた。



でもそんなはずはないのだ。



あの廃墟には美緒がいたんだから。



けが人ところか、死人が出たと大騒ぎになってもいいはずだ。



それなのに……。



新聞のどの欄を確認してみても、そんなニュースは出ていなかったのだった。


☆☆☆


おかしい。



美緒はどこへ行ってしまったんだろう?



疑問を抱きながら学校へ向かうと、横断歩道の手前で咲を見つけた。



咲はスマホを持って歩いていてろくに前を確認していないのがわかった。



なんにんかの人にぶつかりそうになりながら歩いている。



危ないな。



そう感じた瞬間、横断歩道が赤に変わった。



咲はそのままフラフラと横断歩道へ向かって歩いていく。



「ちょっと咲」



思わず声をかけたとき、咲が立ち止まって振り向いた。



あたしと視線がぶつかった瞬間、咲めがけて白い車が突っ込んだのだ。



ドンッと鈍い音が響き、あたりは騒然となる。



「咲!?」



慌てて駆け寄ると、咲がうめき声を上げた。



意識はあるみたいだ。



でも、体はボンネットにぶつかり右足はタイヤに下になっている。



あたしは咲の足首が妙な方向へ折れ曲がっていることに気がついた。



「誰か、救急車を!」



かけつけた通行人たちの叫び声を聞きながら、あたしは美緒の『復讐』という言葉を思い出していたのだった。

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