第21話

翌日、教室のドアを開けると泣き声が聞こえてきてギョッとして立ち止まった。



教室内を見回して見ると光が泣いているのがわかって更に驚いた。



あの3人のうち1人が声を上げて泣いているところなんて、想像もつかないことだったから。



咲があたしが教室に入ってきたのを見て、軽く舌打ちをした。



「見てこれ」



そういわれ、おずおずと泣いている光に近づいていく。



両手で顔を覆っていた光が手を下ろした。



その瞬間顔の半分ほどがニキビで覆われているのを見て、思わず悲鳴をあげて後ずさりをしてしまっていた。



いくら肌が弱くてもたった1日でここまで新しいニキビができるなんて……。



光は再び両手で顔を覆って嗚咽をもらし始めた。



せっかく綺麗になったと思ったのに、たった数日で前よりもひどい状態なってしまったのだ。



その苦しみや悲しみは計り知れない。



「絶対様なんて嘘だったんだ」



咲が歯軋りをして言った。



「え?」



3人とも絶対様に願いを叶えてもらっておいて、今更なにを言い出すんだろう。



不穏な空気を感じて、あたしは咲を見た。



咲は空中を睨みつけている。



「今日の放課後もう1度廃墟に行くよ。それで、全部終わらせてきてやる」



咲は憎しみをぶつけるように、そう呟いたのだった。


☆☆☆


全部終わらせるとはどういう意味だろうか。



質問してみたけれど、咲は答えてくれなかった。



一緒に廃墟へ向かわないと咲の考えを知ることはできなさそうだった。



不穏な空気をまとっている咲と一緒に行動することは気が引けたけれど、仕方がなかった。



放課後になるのを待って4人で廃墟へ向かう。



こうして4人で行動するのはもう何度目になるだろうか。



まるで自分が3人の仲間になったような気がしてきて、胸が悪くなってくる。



廃墟が見えてきたとき、咲は家には入らずに裏手へと移動していった。



どこへ行くんだろう?



疑問を感じながら一緒について歩く。



裏手の入り口付近に置かれていたのは赤い色をしたポリタンクだった。



咲は中身が一杯に入っているタンクの蓋を開ける。



その瞬間ガソリンの臭いがして、あたしは目を見張った。



「ちょっとなにをする気?」



3人はあたしの質問には答えずに、ガソリンを空き家の周りにまきはじめたのだ。



強烈な刺激臭に頭が痛くなる。



「絶対様を作るのに失敗したとき、廃墟ごとあいつを燃やすつもりで準備してたの」



咲は短い説明をすると、ライターを取り出した。



「やめて!!」



咄嗟に咲の腕に飛び掛る。



この中にはまだ美緒がいるんだ。



水を飲ませたら、絶対様から美緒に切り替わることができる。



それは美緒が完全に死んだわけじゃないことを物語っている。



そんな状況で火をつけたら、今度こそ美緒を殺してしまうことになる!



「離せ!」



咲はあたしを振り払い、あたしはその場にしりもちをついてしまった。



立ち上がる間もなくライターに火がつけられ、それは巻かれたガソリンの上に投げ出されていた。



本当に一瞬の出来事だった。



ガソリンは引火し、あっという間に廃墟を包み込んだのだ。



目の前で炎が燃えがある。



「美緒!!」



あたしは廃墟へ向けて叫んだ。



お願い、出てきて美緒!



「美緒、美緒!!」



炎はゴウゴウと音を立ててあたしの行く手を阻む。



それでもあたしは無理矢理廃墟の中に入ろうとした。



それを阻止したのは、咲だ。



咲はあたしの腕を掴んで離さない。



「離してよ! 美緒が、美緒が……!!」



炎の柱はすでに屋根まで覆いつくしてしまっている。



このままじゃこの建物は跡形もなく燃え尽きてしまうだろう。



中にいる美緒だって……。



「帰るよ」



咲は冷めた声でそう言い、絶叫するあたしを引きずって丘を折り始めたのだった。

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