第14話

「あたしもする!」



光が真里菜を押しのけるようにして美緒の前に座った。



そして願いを口にする、その寸前。



「ダメ!!」



咲が大きな声で叫んで光を止めていた。



光は目を見張って「どうして?」と咲を見つめている。



「絶対様への願いは1日1回だけなんだよ。そうしないと、もう願いを聞いてもらえなくなる」



咲は早口に説明をした。



光は瞬きをして咲を見る。



「そんなの聞いてないよ?」



「でも、都市伝説のサイトにはそう書いてある」



咲はそう言ってスマホを操作し、光に画面を見せた。



きっと、絶対様について書かれているサイトを表示させたのだろう。



それを見た光の表情が曇った。



「本当だ……」



「ここに書かれていることが全部本当のことかどうかはわからない。だけど、忠実に再現して絶対様ができあがったんだから、信用していいと思う」



「うん、そうだね」



光は素直に立ち上がった。



それを見てホッとしている咲は、これから何度でも絶対様に願いを叶えてもらう気でいるんだろう。



「これで真里菜の願いは叶ったと思う。行くよ」



咲に言われて、あたしたちは廃墟を後にしたのだった。


☆☆☆


廃墟のリビングを出る寸前、あたしは振り向いて美緒を見つめた。



美緒の目は相変わらず灰色をしていて、床にはベトついた血だまりが残ったままだ。



「美緒」



小さく声をかけてみたけれど、美緒は反応しなかった。



その時の光景を思い出して、あたしは夜中に何度も目を覚ましてしまった。



美緒を廃墟において帰ってきてしまったこと。



美緒の存在を誰かに知らせるべきだと思っている自分。



けれど、そんなことをしたら自分が暴行に加わったとバレてしまう恐怖心。



そんなものがせめぎ合って、結局この日もロクに眠れないまま朝が来ていた。



「ちょっとナナ、その顔どうしたの?」



今日もこっそり家を出ようと思っていたのに、リビングから出てきた母親に捕まってしまった。



昨日からあたしの様子がおかしいから、気にしていたみたいだ。



「な、なんでもないよ」



あたしは咄嗟に顔を伏せて答えた。



頬の腫れはまだ引いていない。



「なんでもないことはないでしょう?」



母親は少し怒った口調になり、無理矢理顔を上げさせられてしまった。



その瞬間傷がズキリと痛む。



「か、階段で転んだの」



「階段って、どこの?」



「公園の、石段だよ。だからあちこちぶつけちゃって、それで」



しどろもどろになりながら説明をする。



「公園って、学校の近くの?」



「そ、そう!」



あたしは何度もうなづく。



早くこの場から立ち去りたかった。



じゃないとあの時のことを全部言ってしまいそうだった。



「き、今日はちょっと早く行かなきゃいけないから。行くね」



あたしは早口に言い、逃げるように家を出たのだった。


☆☆☆


A組の教室に入る前に、また教室内が騒がしくなっていることに気がついた。



まさかと思い足早に教室にむかってドアを開いた。



教室の中央にクラスメートたちが集まっているのが見えた。



また咲たちがなにかしているんだろうか。



そう思ったが、咲と光の2人は自分の席に座っていることがわかった。



ただ、真里菜の姿が見えない。



教室内を気にしながら自分の席に座ったとき、教室の輪の中から真里菜の声が聞こえてきた。



「本当にビックリしたよ! 宝くじを買ったことも忘れてたんだから!」



興奮気味にそう言う真里菜にあたしは首をかしげた。



宝くじ?



「真里菜、前に一枚だけ宝くじを買ってたんだって。それが大当たりしたらしいよ」



クラスメートのささやき声が聞こえてきてハッとした。



真里菜の願いはお金を手に入れることだった。



それが叶ったのだ。



またしても願いが叶っている事実にあたしは驚愕した。



咲も真里菜も、絶対様となった美緒に願いを伝えてから、翌日にはそれが現実のものになっているのだ。



これはもう偶然では片付けられないことだった。



美緒は本物の絶対様なのだ。



「今日はあたしのおごりで遊びにいくよー!」



真里菜のはしゃいだ声が教室中に響き渡ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る