第4話

ここで逆らうとイジメは更にエスカレートしていくことがわかっていたから、逆らうことができなかった。



でも、まさかカッターナイフまで持ち出されるとは思っていなかった。



あたしは自分の首に手を当てて、そのときの恐怖を思い出していた。



冷たい刃の感触がしっかりと残っている。



真里菜に自分の命を握られているという絶望感も、胸に刻まれた。



これ以上耐えることはきっと不可能だ。



精神が壊れる前に、本当に殺されてしまうかもしれないのだから。



美緒が出てきたら相談しないと。



そう思っていたときだった。



足音が近づいてきてあたしは視線を向けた。



咲たちだ。



まだここにいると知られたらなにを言われるかわからない。



あたしはすぐに下駄箱の裏に身をかくした。



「本当にやるの?」



そんな光の声が聞こえてきて耳をすませる。



「当たり前じゃん。全部の願いが叶うんだよ?」



「でも、ただの都市伝説だよね? もし失敗したら?」



「大丈夫。ちゃんとバレないようにやるから」



咲の言葉にあたしは首をかしげた。



またなにかを企んでいるみたいだけれど、光は乗り気じゃない様子だ。



それでも咲はそれを実行しようとしているらしい。



「もし本当だったら、あたしたち3人は無敵だよ」



この声は真里菜だ。



真里菜は都市伝説というなにかをする気でいるみたいだ。



こっくりさんとか、そういうもの話かもしれない。



高校生になってそんなものを信じているなんて、案外子供っぽいのかもしれない。



それからも3人はなにか会話をしながら、校舎を出て行った。



あたしはその後ろ姿を確認してから身を翻して体育館倉庫へと走った。



渡り廊下を抜けて観音開きの大きな扉を開き、体育館の最奥へと走る。



自分の足音だけが聞こえてくるなか、ズッと重たいものが横へずれる音が混じってあたしは歩調を緩めた。



体育館倉庫の戸が少しだけ開き、そこから小さな手が見えている。



「美緒!」



あたしは再び走り体育館倉庫の戸にすがりつくようにして開けた。



中から出てきた美緒はあたしの倒れ掛かるようにして体重を預けてきた。



「美緒、大丈夫!?」



「平気」



その声は想像していたよりもしっかりしていて、少しだけ安心した。



しかし、美緒の制服は切られているし、踏みつけられていた足も引きずっている。



あたしが外へ出されてからも暴行を受けたようで、髪の毛はボサボサになっていた。



「ごめん、ごめんね美緒」



胸が痛くて涙が滲んできた。



あたしのせいで美緒がこんなめにあってまったんだ。



美緒はあたしを助けようとしてくれたのに。



「大丈夫だから!」



途端に美緒はそう叫んで、あたしの体を押し戻したのだ。



あたしは驚いて美緒を見つめる。



美緒は青ざめ、あたしから視線をそらしている。



それはいつもの美緒じゃなかった。



あきらかに様子がおかしい美緒にたじろぐ。



「美緒、あいつらになにか言われたの?」



聞いても美緒は質問に答えず、あたしの横を通り過ぎていく。



「ねぇ、美緒!」



「ごめん。今日はもう帰りたい」



美緒は小さな声で言い、あたしを残して体育館を出て行ってしまったのだった。

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