第十二話 ムサミ
「お二人さん。もう大丈夫だよ」
「ありがとう。助かった」
「しぬかとおもった。ありがと」
「助かったっす。ありがとうっす」
「誰よアンタ!」
助けた覚えのないポニーテイルで腰に刀を二本帯刀し、道着姿のもう一人の人物を指差した。
「おっと、これは紹介が遅れたっす。拙者『真江戸』出身で天下一の大剣豪『ミヤモト・ムサミ』。花の16歳っす」
おちゃらけたように自己紹介してきた。が、油断してはいけない。このムサミという少女はあの皆が集まっていた広場で唯一アタイが手出しできないほど隙がなく精神統一していた少女だったからだ。
「それはどうも。アタイは『ナツカゼ・ペンタ』……じゃなくて、どうしてここにいるの」
「あの場から高速で逃げるそこの妖艶なお姉さんに捕まったからっす」
「我に」
「そうっす。お姉さん身長高いし、お腹周りも細くて捕まりやすかったっす」
「そ、そうか。捕まりやすかったか」
褒められてテオちゃんが照れた。だがアタイは警戒したままだ。
何故ならムサミは一切悪びれなく『捕まえた』と答えたが、いくら二人分人数が増えていたとしても、音速で動くアタイを捕まえるなんてアタイの故郷では誰一人いなかったからだ。
「やはり只者ではないか」
ムサミは敵? それとも味方? 手っ取り早く確かめるには――。
アタイは殺すつもりで殺気を放ちながら忍刀を抜き。
「ムサミ。アンタに聞くけど、アンタはアタイ達の敵、味方。どっち?」
「いきなりどうした。今我らで争いは――」
「テオちゃんは黙っていて」
「テオちゃん!?」
「さあ答えて」
「拙者は……」
場に緊張が走った。
返答によっては……さあ、どう答える。
ぐぅーーーーー。
「拙者は。お腹が空いたっすぅぅ」
ムサミはそう言うと、ヘタリと寝込むように地面に倒れた。
「ぷっ」
あまりにもだらしないその姿にアタイの殺意は消え、思わず吹き出した。
馬鹿馬鹿しい。考えすぎだったようね。
アタイは忍刀をしまう。場から緊張が解けたのでテオちゃんとペピカちゃんがホッとしていた。
きゅるるるるる〜。
「あっ」
アタイのお腹が鳴る。思えばまだ昼ご飯食べてなかったや。
「あなたもお腹空いたんっすね」
「うん。お昼食べ損なってね」
「それならみんな食事にしよう」
「そうね」
「さんせー」
「ありがたいっす」
「食材はこれでいいだろう」
皆の賛成を受け、テオちゃんが袋からこんがり焼けた豚の丸焼きを取り出した。
が、その見た目はアタイが食べようとしたけど苦くて食べられなかったあの金属の猪そっくりだった。
「テオちゃん。その豚はやめた方がいいんじゃないかな」
「なあ。さっきからその、『テオちゃん』って我のことか?」
「あ、ごめんね。アタイ癖で可愛いと思ったら名前の後ろに『ちゃん』をつけてしまうの。もしかして嫌だった?」
「いや、今までちゃん付けで呼ばれたことなかったから驚いただけだ。だから嫌じゃ……ない」
テオちゃんが頬と耳を赤く染めながら、そこらに生えている葉っぱを使い豚を味付けしている。
やっぱりあの豚食べる気なんだ。でも照れながら調理するテオちゃん可愛い。
「ねえ、わたしは。わたしは」
ペピカちゃんがアタイの服を引っ張る。
「もちろんちゃん付けるよ。ペピカちゃん」
「やったー」
両手を大きく広げて嬉しがる。超可愛い。ペピカちゃんはまるで天使のようだ。
「ペンタ殿。拙者は?」
「ムサミ」
「ちゃん付けじゃないっす!」
「だってまだ可愛いと思わないし」
「うぅ。悔しいっす。拙者こう見えて故郷では同性の先輩後輩達から可愛い可愛いと慕われていたのに……」
ムサミは地面に両手をついて悔しそうに地面を叩いた。
「お前ら。食事ができたぞ」
テオちゃんが大きな葉っぱの上に、木を削って作ったナイフで肉を切り分けながら乗せる。
「テオ。わたしてつだう」
「そうか〜。ありがとうペピカ」
デレデレしながら手伝うペピカちゃんの頭を撫でるテオちゃん。この二人は傍から見てるとまるで親子のようだ。
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