第十一話 忍

ーーーーーーーー


 高速で木から木へ移動しながら獲物を探す。アタイは忍びだから一切音は立てていない。


「あ、いたいた」


 足裏に力を込め、木の枝に逆さまになってぶら下り獲物を観察する。

 今回の獲物はアタイの四、五倍はありそうな大きな体格に、同じくらい大きくて立派な牙を生やし、体が黒光りしている固そうな猪だ。


「さてさて。ちゃっちゃと殺りますか」


 腰から忍刀をとり、集中しながら猪本体。ではなくその影へと木にぶら下がったまま縦に一閃。

 

「『影切りの術』」


 術が発動し、猪の影が真っ二つに裂け、斬られていないはずの本体も同じように裂けた。

 これがアタイの忍術『影切りの術』。対象の影を斬れば本体も斬れるというまさに暗殺向きの忍術だ。


「フゴォォォォ……!」


 胴体が真っ二つに切られた猪は赤黒い血を噴き出しながら地面に倒れた。


「案外脆いね」


 アタイは地面に無音で降りた。


 きゅるるるる〜。


 お腹が鳴る。そういえばまだお昼食べてなかったや。


「お腹すいたし。ちょうどいいからこの猪食べちゃお『朱雀の術』」


 術が発動し、炎の鳥が空から落ちて猪を焼いた。


 ジュウゥゥ。


 よく焼けたその猪を見てると、故郷の里でよく狩って食べた熊の丸焼きを思い出す。


 ゴクリ。


「美味しそう。一体どんな味するんだろう。あーーむ」


 こんがりと焼けた美味しそうな表面を摘み、まずは一口。


「モグモグモグ……うえぇぇ苦ぁ。こんなの食べられないよ。やっぱり回収しよ」


 見た目通り鉄のような味がしたので、アタイは食べるのを諦めて丸焼きを袋に入れた。


「この猪でアタイは5,500ポイントか。じゃあ、あとえーと……4,500ポイントだ」


 クロノと別れた後のアタイはここまで苦戦することもなく、順調にポイントを貯めていた。


「よし、次はあっちの方に行ってみよ」


 次なる獲物と昼飯を探しながら、音もなく木から木へと移動していると。


「うわっ。なになに!?」


 ゴゴゴゴゴっと凄まじ揺れが森全体を襲う。

 しばらく木に捕まって耐えていると地震は収まった。


「凄く揺れたね。危うく木から落ちるとこだったよ」


 びっくりしたのでしばらく木移動はやめて地上に降り、少し休憩――。


「すぴーーーーー」


 ゾクッ。


「うわぁ! なになに!?」


 殺気を感じてアタイは目覚めた。

 すると突然、空にとてつもなく大きな竜が現れた。


「うっひゃーー。凄く強そうな竜だね」


 観光客のような気分で竜を眺める。

 そしたら竜は五月蝿く鳴いたかと思うと口を大きく開けた。


「? なんだろう」


 竜の口に光が集まっていく。


 ゾクゾク!


 全身がピリピリしてきた。

 あ、これやばいやつだ。


「『音飛びの術』」


 音速でアタイはこの場から去る。と同時に。


 キュイーーーーン!


 ズゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!


 竜の攻撃により森が次々と破壊されていった。

 その光景を、攻撃の影響がない離れた高い木の上から見ていたアタイは。


「やばかった〜」


 アタイのいた場所付近数キロが一瞬にして焦土と化している。逃げるのが遅ければアタイも焼かれていただろう。


「おのれ〜。赤黒竜め〜!」


 安全な場所からぐぬぬっと竜を睨む。


 カパッ。


 そしたら竜はまた口を大きく開けて、再び光を放とうとした。


「ちょっと竜。いい加減にして……人? 『千里眼の術』」


 視力を高めてよく見ると、竜の視線の先に2人の女の子が逃げていた。


「大変だ。早く助けないと! 『音飛びの術』」


 可能な限りの全速力であの女の子達の元へ駆け出す。


「ヤバッ竜の攻撃が!」


 キュイーーーーン!


 少し遅れて竜から放たれた破壊の光が彼女達に迫っていく。


「うーー間に合え!」


 ようやく近くまでたどり着いて女の子の顔が見えた。


「あれ? 確かあの子達は――」


 私も羨むナイスバデーに、真紅のくびれ髪と風格のある角の美少女と、思わず抱きつきたくなる小さな体に愛らしい瞳の幼女。


「思い出した。確かテオちゃんとペピカちゃんだ」


 思い出せてほっとする。


「ってやばい。助けないと!」

 

 アタイは瞬時に距離を詰めた。


「よかった。ギリギリ間に合ったみたい」


 アタイの声でテオちゃんとペピカちゃんが後ろを振り向く。


「やっほ」


「お前は、なんで我の後ろに!?」


「説明は後。二人ともほら、早くアタイの手に掴まって!」


「うん」

 

「わっ、わかった」


 テオちゃんとペピカちゃんの手をガシッと離さないように強く握る。


「逃げるよ。『音飛びの術』!」


「うわっ!」


 ギリギリであの光を避け、音速の速さで竜から数十キロ離れた森の中に移動する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る