第二話 ガーディアンズ本部


 ウルカと一緒に生活してからおよそ2年が経った。


 この2年間、毎日運動のようにしていたウルカとの修行が終わったある日のこと。


「もうこの星から出ても大丈夫や。破壊衝動は限りなく無くなっているから」


 治療が終わったと患者に伝える先生のようにウルカがそう言った。


 確かにここにきてから私の中にある破壊衝動はどんどん薄まっていた。ウルカいわく『この星はなあ、宇宙でも随一のリラックススポットなんや』と自慢げに語っていた。


「破壊衝動は無くなっている、か……これもウルカのおかげだな」


「うちは大したことはしていない、この星の癒しパワーやーー」


 小さな体のくせに、手を大きく広げながら主張するウルカ。


「それもあるだろうけど。ウルカ個人にお礼がしたいんだ。本当にありがとう」


「はは、お礼言われるとなんか照れるなぁ」


 私がお礼を言うと、ウルカは頬を赤らめ嬉しそうに照れていた。そして照れたまま。


「それじゃ例の組織に入隊してくれる?」


「照れたままいうことか? それに例の組織って、ウルカの所属しているというあの組織のことか?」


「せや。うちの所属組織『ガーディアンズ』や。いやー久々に戻るからまた忙しい日々の始まりやー」


『ガーディアンズ』とはウルカいわく『宇宙の平和を守るカッコええ組織や』とのことだ。詳しく聞こうとしたが『組織に入ってからのお楽しみや』と教えてくれなかった。


「それじゃあ早速だけど出発するで。クロノうちの手握って」


「こうか」


 私はウルカの右手を握る。


「ほんじゃ行くでぇっ!」


 それは一瞬のことだった。瞬きするような一瞬のうちに私たちは巨大な建物の入り口の前に立っていた。


「ついたで」


「……すごいな一瞬でこんなとこにくるとは。それにこの巨大な建物はなんだ?」


「へへ凄いやろ。この建物こそ総勢1億人の巨大組織『ガーディアンズ』本部や。あいっっっっっっ変わらず立派な建物や」


「めっちゃ言葉溜めたな。でもこれが……」


 ガーディアンズ本部は私の世界では見たことのないほどの巨大な建物だった。横幅でも先が見えないほどの広さで上は天にまで届くほどの高さを誇っている。


「こっから先はクロノ1人で行ってな。うちとはここでお別れや」


「? ウルカは私と一緒じゃないのか?」


「ウチはこう見えてここではそれなりにお偉いさんなんや。だからクロノとも滅多に会えなくなるかもしれない。だから少し寂しいわ……」


「そうか……それは寂しいな」


「まっ、でもクロノならすぐにうちと会える気がするわ。あんたはうちのやからな」


「前にも同じこと言ってたが、私がウルカの後継者に相応しいって。それで私を保護したってことなんだよな」


やけどな。保護したのはそれが一番の理由だけど」


 ウルカは少しだけ寂しそうな表情をするも、すぐ笑顔になり。


「一緒に過ごせて楽しかったで」


「私も。楽しかったと思う」


「思うって何やねん! あははは」


「はははっ」


 ウルカが大声で笑いそれにつられ私も笑った。


 めいいっぱい笑いあった私たち。


「ほなもう行ってきな。入隊して頑張ってうちのとこまで駆け上がってくるんやで」


「ああ、必ず会いに行く。そして次会ったときは絶対ウルカよりも強くなっているから」


「それは怖いなぁ。あははは」


「まだ笑うのか……じゃあ行ってくる」


「行ってらっしゃい。中に入ったらそのまま真っ直ぐ進むんやで。それと初対面の人相手に人見知りするんじゃないで」


「それは……努力する」


 この2年ウルカのおかげでコミュニケーションはもうバッチリ……と思う。

 けど正直自信はない。だって約2000年もウルカ以外の人とは話してこなかったもん。


 ウルカに手を振って私は巨大な建物の入り口の中へと向かう。建物のドアは私が近づくと勝手に開いた。


「外で見た通り、中はかなり広いな」


 建物の中は想像以上に広く、所々柱が何本も立っていた。


 ウルカのいいつけ通りそのまま真っ直ぐ進むと、巨大で神秘的な装飾をしている扉がありその扉の左右に1人ずつ少女が立っていた。


「この先か?」


 その扉の前まで歩いていくと。


「「ようこそガーディアンズへ。入隊希望の方でしょうか?」」


 左右の少女が同時に話してきた。


「そうだ。私はこの組織に入りにきた」


「「かしこまりました。それでは入隊試験がございますので、そのまま進んでください」」


「入隊試験?」


 入隊試験あるとは知らなかった。ウルカのやつ知ってて言わなかったな。


 私は扉が開くのを待っていたが開く気配が一向にない。もしかして開けるのを忘れているのか?


「そこの2人、扉が閉まっていて中に入れないんだが」


「「そのまま進んでください」」


 意味がわからなかった。そのまま進む? 閉じているのに?


 扉に触ってみる。扉は扉だ。試しに押しても開く様子はなかった。


「だから扉を開けてくれ」


「「そのまま進んでください」」


 また同じことを繰り返す少女達。


「この扉壊していいのか? 壊さずにここ進めるわけ――」


 通るように考えながら進むと、扉はまるでなかったかのようにすり抜けた。


「……本当にそのままだった」


 触ると感触はあるけど、進むとすり抜ける不思議な扉。


「変な扉だな、なんで開かないんだ?」


 不思議に思いながらも、私はすり抜ける扉の先へと進んでいく。

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