第2幕 18年後、豊後の介の家

三条

「あれから随分月日が経って、お姫様ももう18になられた。都とはあれっきりだけれど、夕顔のお姫様も右近様もどうしておられるか」

「夫は体を壊して二ヵ月前に亡くなったし、お姫様には次から次へと結婚の申込があるし、いっそ都へ戻って中将様、おっと今は左大臣様にわけを話しましょうか」

たまかずら

「お母さん」

三条

「ああ、お姫様」

たまかずら

「お姫様はやめて。私はお母さんの子なんやから」

三条

「いいえ、あなたは今をときめく左大臣様のお子で、私はあなたのお母様にお使えしていた乳母なんですよ。何度お話ししたらわかっていただけるのか」

たまかずら

「いえ、お母さん、私が赤子の頃から育ててくれたのは、お父さんとお母さんや。たとえ都にお父さんやお母さんがいてても、私にはお母さんが、お母さんが、ほんまの私のおかあさん」

三条

「ありがと、ありがと、ありがたい、ありがたい」「あ、それはそうと例のクマ、いや熊倉の殿がまた恋文を寄せてきましたよ」

たまかずら

「クマの奴、ひつこいなあ、私、あんなごっつい感じのあんまりスカンの、どっちかいうたらBTSみたいな方が・・」

三条

「同感、同感」

たまかずら

「もうちょっと自分の顔と相談してから申し込んでくれないと、私も困るわ」

三条

「そう言っても、この辺りでクマに反抗したら生きていけませんし、ウチの次男も三男も買収されているし。もうそろそろ来る頃ですよ」

クマ

「ごめんください」

三条

「ほら来た。お姫様、どうなさいます」

たまかずら

「会いましょう」

三条

「いらっしゃいませ。どうぞお上がりを」

クマ

「姫、今日は一段とまたお美しい」

たまかずら

「ありがと」

クマ

「姫、そろそろ良い返事を聞かせてくれないか。ヒメ!」

たまかずら

「ヒメ、ヒメて気安すう呼んでくれているけれど、もうちょっと自分の顔と相談してから言うてくれるか。鬼ガワラみたいな顔して、よう結婚してくれやなんて」「どあつかましい」

クマ

「ムムッ。ヒメやと思うて下手に出てたら、ええ気になって。こうなったら力づくでも嫁にするからな。次の吉日に迎えにくるから用意して待ってろ」

三条

「今度の吉日なんて早すぎる」

クマ

「ええい、うるさい。ちゃんと段取りが出来ていないと、お前らどうなるかわからんぞ。帰る」

たまかずら

「お母さん、ちょっと言い過ぎたかしら。どうしよう」

三条

「ほんまえらいこっちゃな。どうしようかな。ええい、こうなったら、もう都へ行くしかない。姫、都へ出たら何とかなります。文の介、文の介、すぐに都へ発つから船を準備して」

文の介

「一番早い船を頼んできます」

三条

「ああそうしておくれ。姫、姫も早うに用意してください。あのクマが追いかけてきたら大変や。早よ用意して」

たまかずら

「お母さん、私、なんだか怖~い」

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