笑説 たまかずら

tsutsumi21

第1幕 夕顔の家の前(夕暮れ)

(松竹新喜劇風)


頭の中将(白ボテ)

「源氏殿にも困ったものだ。マロが最初に夕顔を見初めたというのに、すぐに横取りしようとする。源氏殿はあれほどの男ぶりだから他にも浮名はたくさんあるのに。

 そうそう、あの六条の御息所なんか源氏殿と浮名を流されて、かわいそうに恥ずかしさのあまり死んでしまった。ほんまにかわいそうに。またそんな被害者が出たらたいへんや。源氏殿にクギをさしとかなアカン」。


夕顔の家の中


夕顔

「まあ、誰かと思えば頭の中将様、わざわざお越しいただいて。連絡くれはったら、こちらからお伺いしますのに」。

頭の中将

「ようそんなええかげんなこと言うて。あんたの方から出てこられるわけあらしまへんやないか。まあそれにしても、いつ見てもきれいやなあ。愛してるで」。

夕顔

「おおきに、ありがとうございます。でも中将様、私は中将様だけのいいなりにはなれしまへんの」。

頭の中将

「なれしまへんのて、そらまた何で?」

夕顔

「源氏のお殿様が・・・」

頭の中将

「やっぱり、また源氏殿がちょっかい出してきてんねんな」「ほんま、じっとしとかん人やな」「それで源氏殿はいつ来られるや?」

夕顔

「もう来たはります」

頭の中将

「あいたたた、もう来てんの!」「ほな、どこにいてまんねんや」

夕顔

「お殿様」

(奥正面から源氏が襖を開けて出てくる)

源氏

(白ボテ)

「夕顔、なんか呼んだか」

夕顔

「頭の中将様がお越しで・・」

源氏

「おお、中将殿が来られたか」「これはこれは中将殿、お久しぶり」

頭の中将

「お久しぶりやあれしまへんや、また人の恋路の邪魔して。それにまた今日はいつもより(顔の化粧)多めに塗って」

源氏

「あんたもな」

「ま、そう言わんと、どうぞお上がり」

頭の中将

「どうぞお上がりって、ほんま腹立つなあ」「あ、夕顔殿、もうかまわんで下さいや」

源氏

「かまわんでええ言うたはる」

頭の中将

「それは方便やがな」

源氏

「うそやて!」

頭の中将

「もう頭にくるなあ。なあ、夕ちゃん、こっち来てすわって」

源氏

「まあ、慣れ慣れしい」

頭の中将

「慣れ慣れしいやあれへん。もともと夕顔は私が先に惚れたんでっせ。それをあんたにちょっと見せたら、もうこれや。私もアホやった。こんなスケベに見せて」

源氏

「スケベはひどいな」

夕顔

「もう二人とも止めておくれやす。二人して取り合いして、せっかく仲のええお二人やのに、そんなんやったら、私、どっちのお世話にもなりません」

源氏

「ゆうがお」

頭の中将

「ゆうちゃん」

源氏

「中将殿、ケンカしてもしょうがない。仲良うしような」「そろそろワシは帝のところへ行ってきますわ。夕顔、また来るわな」

(源氏が去る)

頭の中将

「ああ悔しい。なんとしても夕顔を手に入れないと。源氏殿に取られてたまるか。いっそ今日は、よし行くぞ。突撃」

(進軍ラッパ)

夕顔

「あ、中将様、どうなさいました。え、いや、あ、中将さまー」


(暗転)


赤ちゃん

「オギャーオギャーオギャー」

夕顔

「おおよしよし、ええ子じゃええ子じゃ」

右近

「かわいいおんなのお子様で、さぞかし頭の中将様もお慶びのことでしょう」「ただ、源氏の君は残念そうな顔をなさって。でも今だにお姫様に御執心で、あの方には驚かされます」

夕顔

「右近、源氏の殿様にはご親切にしていただいていますのに、そんな事言うたらバチがあたりますよ」

頭の中将

「夕顔や、来たで。おお、赤子も元気でおるか。おーお前に似てかわいらしいな。それはそうと、この頃都でウワサの怨霊、どうやら女につくそうや。お前も気いつけや」

夕顔

「まあ、こわ。でも私には強い中将様がおいでですから、どうもあれしまへん。それと右近と三条もおりますし、大丈夫です」

頭の中将

「そうか、それやったらええんやけど、くれぐれも気をつけてくれよ」

(使いが手紙を持ってくる)

「また帝からのお呼びや。ちょっと行ってくるわ。留守中、しっかり頼むで」

「右近、夕顔を頼みます」

右近

「はいはい、しっかり私が見守っておきます。悪い虫つかんように」

頭の中将

「そや、そういうたら源氏殿もまだ時々見えるんか」

三条

「へえ、毎日」

頭の中将

「毎日かいなあ。あの人の熱心さには参るな。そやけど、あれくらいまめでないと、あちこちに作られへんはなあ」「ま、悪い虫も来たら退治しといてや」

右近

「わかりました。ご心配なく」

頭の中将

「ほな、行ってきます。夕顔、バイバイ。」

夕顔

(バイバイと手を振る)

右近

「ほな、私も奥でちょっと用事を済ませてきます。三条、赤ちゃん、連れてきて」

(右近と三条が去り夕顔がくつろいでいる所へ怨霊が来る)

怨霊(六条の御息所)

「夕顔やな」

夕顔

「お前は」

怨霊

「私はお前たちと同じように源氏の君に愛された六条よ」

夕顔

「御息所(みそくどころ)様」

怨霊

「源氏殿との浮名が都中に流れて私は恥ずかしくて死んでしまったのじゃ」

「お前たちが私の大事な源氏殿を盗ったのじゃ。今度はお前たちを狂わしてやる番じゃ。こうしてやる」

(怨霊が夕顔にとりつき夕顔は苦しみもだえる)(そこへ源氏が訪ねてくる)

源氏

「お前は誰じゃ、この怨霊め。誰か、誰かある。右近はどこじゃ」

「大丈夫か夕顔、しっかりするのじゃ」

右近

「ああ、お姫様、お気を確かに!」

夕顔

「六条様が、六条の御息所様が・・」

源氏

「御息所か」

夕顔

「私は、私はもう。赤ちゃんを、どうか赤ちゃんをお願い」

源氏

「夕顔、夕顔、あー夕顔、あー死んでもうた」

「あーあ」

「右近、夕顔をこのままにしてはおけぬ。怨霊が出たとあっては何かと隣近所がうるさい。いっそこのまま私が鳥辺野まで運ぶことにしよう。右近、誰にも見られず車を持ってくるのじゃ。よいな」

右近

「はい、ただいま」

源氏

「ああ、かわいそうな夕顔、ああ、かわいそうなことをした。わしがそばにいてやれば良かった」

右近

「お殿様」

源氏

「右近、そちも一緒に参れ」

右近

「お姫様、あーん、あーん」

(源氏と右近が夕顔を車に載せ去る)


(暗転)

赤ちゃん

「オギャーオギャーオギャー」

三条

「おーよしよし、あれからもう一週間もなるというのに、夕顔のお姫様も右近様もどこに行かれたのか。まるで神隠しにでもあったようや、それにあれっきり源氏の君も来られないし、中将様も理由がわからず頭をかかえてお帰りになったまま、どうしたものか」

豊後の介

「おい、ただいま。たいへんじゃ、今日、宮殿へ上がると来週から九州の豊後へ転勤が決まったんじゃ。大急ぎで用意をしなければならん。支度を頼むぞ」

三条

「しかし、お姫様も右近様もおられないのに、このまま豊後へ行ったら。それに赤子はどうされます?まさか中将様の所にお連れするわけにもいきますわい」

豊後の介

「はてさてどうしたものか。お姫様も右近様もおられないのだから、こうなったら赤子は私らの子ということで一緒に連れて行くしかないな」

三条

「仕方ありませんね。わかりました。そうなったからには大急ぎで旅の支度をしましょう」

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