第2話
「噂によると、魔女が現れるのは、夜の九時。場所は三っ池。今夜はとにかく、九時に三っ池で撮影、集音をする。山田、君の言っていた塾の子に会えるかな? 山本さんって言ったよね」
「うん。今日も関塾に行くはずだよ。六時から八時半までのコースなんだ。終わったら話が聞けると思うよ」
「そうか、それじゃ、八時にまたここへ集まろう。僕らはそれまでに聞き取り調査をしておくよ。山田は塾があるだろう?」
「まあね」
と言って山田は、腕時計に目をやった。
「じゃ、またあとで」
山田は、水曜日の今日、午後四時半から二時間、関塾で勉強するのだ。なんてもったいない。お金も時間も。子供には勉強よりももっと大事なことがある。今しかできないことをやるべきなんだ。勉強なんて大人になってもできるじゃないか。塾へ行く彼を見ていると、いつもそう思うのだ。
「それで、聞き取り調査ってのはどうやるんだ? まともな話が聞ける奴はいるのかよ」
「まあね。とにかく、長谷川さんちに行ってみよう。彼女、他の子からも魔女の話を聞いているらしい」
僕と内野は藤ヶ丘五町目の長谷川さんの家に向かった。その途中、藤ヶ丘商店街を抜けると、
「あら、けんちゃん。今日はおつかい頼まれていないのかい?」
と声をかけてきたのは、八百屋のおばさん。
「うん。これでも僕は忙しいんだ」
そう答えて、商店街をあとにした。商店街を出て、右に行くと藤ヶ丘五町目になる。長谷川さんちは西公園の前だ。公園では近所のちびどもが鬼ごっこをして、はしゃぐ声が聞こえている。
「こんにちは」
玄関のチャイムを鳴らして、あいさつすると長谷川さんのお母さんが出てきた。
「あら、えっと、吉田君と内野君だったわね。ちょっと待ってね。美佳! お友達が来てるわよ」
と二階に向かって声を張り上げた。こんなにおしとやかそうな人でも母親になると、大声で子供を呼ぶんだな。美佳の母親はにっこり上品に微笑んで、
「どうぞ上がってちょうだい」
と言ったが、
「いえ、結構です」
僕はそれを断った。どうせ、母親というのは、自分の子供の異性の友達に興味を示し、こっそり盗み聞きなんかするのだから。
「あら、そう」
美佳の母親は残念そうにしている。僕のとなりでは、内野が残念そうだ。おやつでも期待していたのだろう。何も言わないが、僕をちらりと見た。
「来てくれたの」
美佳は僕を見ると、うれしそうに階段を駆け下りてきた。
「あたし、出かけてくるね」
母親にそう言うと、美佳は僕の手を取って玄関を飛び出した。
「ねえ、調査のほうはどう?」
「まだ、なんにも……。君の知っていることをもう少し聞かせてほしい」
「知ってることねぇ。もうあんまりないわ。あっそうだ。三組の千恵ちゃんが、何か知っているみたいよ。話を聞きに行ってみない?」
ということで、僕ら三人は、三組の中山千恵の家に行った。彼女の家もこのあたりらしい。
「あら、千恵なら遊びに行っているわよ。真由美ちゃんとどこかへ行くって言ってたわ。どこだったかしら?」
千恵の母親はほほに手を当て斜め上を見ながら、子供の行き先を思い出そうとしている。
「ありがとうございます」
美佳は、ぺこりとおじぎをして、
「場所は分かったわ」
そう言って僕と内野の腕を抱え、千恵の家をあとにした。
「分かったって、彼女はどこにいるのさ」
「ホビープラネットよ。あの子たち、あそこの雑貨がお気に入りなの」
ホビープラネットとは、美佳の言ったとおりの雑貨屋だ。女の子の好みそうな派手でチャラチャラした店。
「えー。俺らそういうところはちょっと……」
内野がやっと口を開いたのはその一言だけだった。
「別にいいわよ。あたしが聞き出してくるから。この調査、あなたたちに依頼したけど、頼りないから、あたしも協力するわ。真知子ちゃんのためにもね」
美佳はそう言っていたずらっぽくウィンクした。
「女の子への聞き取り調査はあたしに任せて。あなたたちは、そうね、魔女の捕まえ方でも考えててよ」
「まあ。君の言うとおり、女子への聞き取り調査は僕らより君のほうがいいと思う。僕らは男子への聞き取りをしたいけれど、目撃者があまりいない。君は男子の目撃者を知らないか?」
「いるにはいるけど、下級生の目撃者は信用できないわ。魔女が現れる時間は夜の九時。それは間違いないのよ。うわさによると、男子の前には表れないらしい。魔女は女の子を狙っているみたい。捕まえる気なのかしら?」
「それは君の憶測だろう? 真実を突き止めなきゃならないな。もし、君の言ったとおり、女子だけが狙われているとしたら……。何か、危険なにおいがするよ」
魔女が女の子だけを狙っているとしたら、魔女の国に連れて行くつもりなのかもしれない。本当に魔女がいるのならば。
美佳は聞き取り調査に向かった。
「内野、いったん僕の家に行こう。調べたいことがあるんだ」
「おう、でもその前に。はら減った」
そう言って、内野は腹をさすった。これだけ体格がいいのだから、見てわかるように彼はよく食べる。そして、すぐにおなかがすくのだ。
「そっか、何が食べたい?」
「焼き鳥がいいな」
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