三っ池の魔女~藤ヶ丘少年団~
白兎
第1話
どこの学校でも、噂話というのはあるだろう。僕らの学校で、最近噂されていること、それは『三っ池の魔女』だ。
五年二組の篠原さんは、先週の土曜日に、三っ池の上空で、ほうきに乗った魔女を見たという。彼女は塾帰りで、時間は夜の九時頃だった。
三年三組の横山君は友達と一緒に三っ池で遊んでいたとき、やはり上空にほうきに乗った魔女を見たという。しかし、これはあまり信用できない。彼が見た時間は、午後四時ころだという。まだ明るい時間だ。目立ちすぎる。
僕は昼休みに、五月のうららかな春の日差しが差し込む自分の席で、外をぼんやりと眺めていた。
「ねえ、吉田君。魔女の話を知ってる?」
話しかけてきたのは、クラスメイトの長谷川美佳。
「知ってるよ。だいぶ噂されているからね」
「本当に魔女って、いると思う?」
「さあ、僕は見たことがないから分からないよ。でも、絶対にいないとは言い切れないんじゃないかな?」
「魔女の声を聞いたって子もいるのよ。何か証拠をつかめば、本当にいるって証明できると思うんだけど」
「証明してどうするの?」
「真知子ちゃんが見たって言ったのよ。だけど、塾の友達が、嘘つきって言って、最近仲間外れにされているらしいの。私はそんな塾やめちゃえばいいのにって言ったんだけど、やめるなんて悔しいって。だって、嘘なんかついいないんだからって。ねえ、何とかならないかなぁ」
よくしゃべるなぁ。
「ねえ、聞いてるの?」
「もちろん。それって、僕に依頼したいってこと?」
「話が分かるじゃない。よろしくね。魔女はいるっていう報告待ってるから」
長谷川さんはそう言って、女友達の輪の中に入っていった。なぜ、こんなくだらないことを引き受けるのか? それは、僕には仲間がいて、僕らにしかできないことだから。うわさが噂を呼び、今では誰もかれもが、その噂でもちきりだ。こんなうわさまでも耳に入ってきた。三っ池に住む魔女は、人の子を捕まえて食べてしまうとか、魔女の国がどこかにあって、子供を連れ去り、一生そこで奴隷にされてしまうとか、魔女の動物園の檻の中で見世物にされるとか、カエルに姿を変えられてしまうなど、さまざまで、もうどこに話が飛んでしまっているのか分からない。
午後の授業は眠たくて、ほとんど何をやったのか覚えていない。ときどきマッキーが僕の席に来ては、コンと頭を叩いた。マッキーとはクラスの担任教師。本当のは前は牧田健二。ちなみに僕は吉田賢一。
「吉田、依頼を受けたんだってな」
放課後、教室を出た僕に話しかけてきたのは、内野省吾。彼は身長165センチもあり、体つきもがっしりしている。その隣にいる、色白でひょろっとしているのは山田透。僕らは同じ六年一組のクラスメイトで、一組の三人組と言われている。なぜ、僕らが一組の三人組かって? それは、隣のとなりの三組に、悪ガキ三人組がいるかさ。奴らは三組の三人組。
「ああ、魔女がいることを証明してほしいってさ」
「ばっかだなぁ。いるわけないじゃん。そんな約束して、魔女がいないと分かったらどうするんだよ」
「内野、調べる前からそんなことを言ったら夢が壊れちゃうよ。長谷川さんの友達って、N小学校の山本さんなんだけど、塾でよく会うんだ。あの子が嘘をつくとは思わない。人をだますなんて子じゃないよ。きっと本当に見たんだ」
山田はロマンチストな奴だ。空想好きで、僕らのような現実派の人間には時々理解できない。彼のいいところは、想像力が豊かなことだ。時にはそれが役に立つこともある。
「そうかもしれないな。さっそく、今夜、三っ池に行ってみよう。その前に作戦を練る。家に帰ったら第二秘密基地に集合だ」
僕らはひとまず家に帰った。
「ただいまー」
階段を駆け上がると、
「おかえり」
母さんが僕の背中に向かって言った。二階には僕と妹の部屋がある。二人の部屋は薄い板で仕切られていて、話し声が筒抜けなのだ。幸い妹は出かけているらしい。僕が調べ事をしていると、必ずと言っていいほど首を突っ込んでくる。
「魔女がいるっていう証拠か……」
ノートパソコンを開いて、インターネットで魔女を検索してみると、ものすごい件数だ。全部を見るには相当な時間がかかるだろう。その中の『魔女の世界』という項目をクリック。いかにもといったような仄暗い世界の絵と、魔女の世界についての解説が書かれていた。
「こんなのただの空想だ。何の参考にもならない」
『魔女の捕まえ方』『魔女になる方法』『魔女はどこにいるのか』など項目を調べてみたが、どれもこれも単なる憶測でしかなかった。本当に魔女に会ったという人はいないのだろうか? それとも、やはり、魔女は存在しないのではないか?
「とにかく、証拠をつかむためには、ビデオカメラが必要だ。それと、性能のいい集音機。魔女の声を録音できるかもしれない」
僕はこんな独り言を言いながら、メモに書きだした。そろそろ、秘密基地に行かないといけない。二人が待っているだろう。
「いってきます」
僕が言うと、
「いってらっしゃい」
とキッチンから母の声だけが返ってきた。玄関まで顔を出すまでもない。
第二秘密基地にはすでに二人が待っていた。ここは藤ヶ丘四丁目の山のふもとの竹やぶの中だ。誰も使っていない、おんぼろな小屋を僕らが勝手に使っているのだ。
「ミッション開始だ」
いつもの僕の号令で、調査が始まる。一応、僕がリーダー。
「で、調査の方法は?」
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