5 勇者は犯人を殺害する。
時間が巻き戻る前の記憶を辿ってみる。
エクノスを殺す直前、俺は後頭部を強く殴られた。それは間違いない。
「……なあ、リーティア」
「なあに?」
らしくもなく胸元をシーツで隠しながら女魔法使いは首を傾げた。
「お前の武器って杖だよな?」
「そうね。魔法が私の武器だけど、魔法使うのに杖はいるわね」
いざ思い返してみると俺は毎回、後頭部に強い衝撃を加えられていた。
なるほど。
杖で殴ったか。
魔法使いの癖に物理攻撃とはな。
魔法で殺すとバレると思ったか。
意外と物理攻撃もいけるんだな。感心したぞ。
エクノスは容疑者から除外できており、治癒術師のサレーヌは武器を持たない。つまりリーティアが犯人ということだ。とっくにバレてるんだよ。
「リーティア」
「マジな顔してどしたの?」
「散歩に行かないか」
「へ?」
「一緒に外を歩きたい気分なんだ」
「……どういう意味?」
「お前と一緒に外を歩きたい。変か?」
「変! すっごく変! 今までそんなこと、言ったことなかったじゃん。いっつも夜に呼び出すばっかでさ」
「嫌ならやめとこう」
「嫌とは言ってないって! いいよ。行こ!」
慌てて首を横に振るとリーティアはいそいそと外出の準備をはじめた。
大した演技力だ。魔法使いなんかやめて役者にでもなるといい。来世でな。
俺とリーティアは宿を抜け出て、外へ。
腕をからめてくるのが歩くのに邪魔だな、と感じつつ、逃がさずに済んでちょうどいいか、とも思った。俺は少しずつ人気のない方へ進んでいく。
「どこに向かってるの?」
「景色のいいところだよ」
このまま林道を登っていくと魔王城が見えてくるはずだった。実際に見晴らしがいいポイントではあるのだ。ただ、今の俺にはそこまでリーティアを連れて行くつもりがなかった。周囲に人の気配はないことを確認。そろそろいいだろう……。
「グレオス、ちょっと怖い顔してるよ」
「気のせいさ」
「ちょっ……んんっ!」
リーティアを強引に抱き寄せ、唇を塞いだ。僅かな抵抗。すぐにおとなしくなった。しなだれかかるようにして体を預けてくる。俺が夢中になっている隙に殺そうという算段だろうか。
「くく」
「なぁに?」
だが、俺はお前が犯人だとすでに知っている。背中に回した手をずらして首を掴み、勇者として鍛え上げた握力で頸椎をへし折ってやった。これまで何度も何度も殺された恨みだ。思い知るがいい。
リーティアだったモノがずるりと崩れ落ちていくのを見下ろす。
「……終わったな」
俺は俺自身の仇を取ることができ満足だった。気分が高揚していた。危機は去った。現金なもので、俺の下半身も高揚していた。
「ふむ」
目に入ったのはひとつの死体。死にたてで、まだ温かい。宿に帰ってエクノスを抱いてもいいが、筋肉質すぎて好みではないのだ。サレーヌは無理だ。生理的に受け付けない。
「最後だからな」
俺はリーティアだったものを犯した。その後魔法で穴を掘って埋めた。それでようやくすっきりした。心身ともに。これで枕を高くして眠れるというものだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます