3 勇者は予定を変更する。
簡単なお仕事のはずだったのが、俺はまたしても宿屋のベッドで目を醒ましていた。
すぐさまアイテムストレージを確認する。《女神の砂時計》の数は三個。またひとつ数を減らしている。つまり俺は、再び死んでしまったってわけだ。
……いや、殺されたと言うべきだな。
気をつけていたつもりだったが、しくじったな。まあ済んだことは仕方ない。これからのことを考えよう。
……誰が俺を殺したかを突き止めなければなるまい。
魔王が共生関係にある俺を殺すことは絶対にないのだから、必然的にパーティの誰かが俺を殺した犯人になる。
そう。たとえば、
「朝からバタバタ元気がいいわね」
俺のベッドに全裸で入り込んでいる、この
「……」
俺は目の前に恥じらいなく放り出された胸に手を伸ばしかけて、やめた。
呑気に乳など揉んでいる場合ではない。
「どしたの? 昨日頑張り過ぎた?」
男好きのするこの緩い笑顔も、殺意を覆い隠す仮面かもしれないのだと思うとすっかりやる気が萎えてしまう。
「……ああ、ちょっと調子が悪いみたいだ」
「えっ。ウソ。マジで?」
こうして驚いて見せる姿も演技なのではないか?
「魔王城の攻略は一日遅らせよう。リーティア、悪いがみんなに伝えてくれないか」
二回も死んだこれまでと別の行動を取ってみようと、俺は考えた。出発を一日ズラすとどうなるだろうか。何か変化が起きるかもしれない。
「わ、わかった! 他に何かできることある?」
「とりあえず服を着てくれ」
全裸で部屋を飛び出そうとするのは阻止しておく。
大急ぎで服を着たあと、俺に心配そうな視線を向けてリーティアは部屋を出て行った。
その後、特に何事もなく平穏に時間は過ぎていった。
日が昇りやがて傾き夜を迎えて、部屋の施錠を厳重に確認し、念のため鎧を装備して剣を抱いてベッドに横になった。自分でも気づかないうちに緊張していたらしく眠気はなかなか訪れなかった。
「行動を変えたら殺されずに済んだ、か」
思っていたよりずっと簡単に事が済んでよかった。明日さっさとあいつらを魔王に殺してもらおう。そして俺は生還して新たなパーティメンバーを募るのだ。俺を殺さないようなメンバーをな。
つまらない冗句に内心で笑い、俺はいつの間にか眠りに落ちていた。
そして目を醒ますと――
隣にリーティアが全裸で眠っていた。
「またか!」
「朝からバタバタ元気がいいわね」
跳び起きた俺に気だるげな視線を向けるリーティアを無視して、アイテムストレージを確認。《女神の砂時計》の数が減っている。あと二個。眠りに落ちたあとで俺は殺されたのだ。そして《砂時計》の効果でまた同じ朝に帰ってきた。
犯人にとっては魔王城でも宿屋でも殺害場所はどちらでもいいらしい。何がなんでも俺を殺したいようだ。よかろう。ならば反撃だ。逆襲してやる。
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