2 勇者と魔王の秘密の関係。


 魔王城の構造を俺は熟知している。

 もう何度目になるかわからないくらい訪れているからな。

 罠の配置どころか隠し通路も隅々まで把握している。

 最短ルートを選んで魔王の前に辿り着くなど朝飯前だ。


「ようこそ勇者よ」

「久しぶりだな魔王」

が此度の仲間か。女ばかり揃えたものよな。ちと妬ける」

「ほざいてろ」


 ここまでは俺の記憶と同じ流れ。

 まともに戦えばレベル差的にこちらが全滅するはず。俺以外の全員が。


 俺は誰にも気づかれないように魔王に目配せをした。

 魔王も小さく頷いた。

 

 魔王は俺を殺さない。

 俺は魔王彼女と結託しているのだから。






 俺と魔王のなれそめはおよそ十年前――俺がはじめて魔王に戦いを挑んだ時――までさかのぼる。


 あのとき、俺を除くパーティメンバーはあっさりと皆殺しにされた。

 魔王が俺だけを生かしておいたのにはひとつ、単純な理由があった。


「顔が好みだったのでな」


 自分の勇者然とした外見があまり好きではなかった俺は、なんとその見た目で命拾いしてしまったのだった。

 

 魔王とはそれから持ちつ持たれつの関係だ。

 魔王は俺に「定期的に若くて強い女を連れてくること」を求めた。彼女らの血肉を食らうことで若さと美貌を保つ。比喩的な表現ではなく文字通り食ってしまう。

 代わりに俺は「何度破れても魔王に挑み続ける不屈の勇者」という名声を得た。おかげで金にも女にも困らなくなった。

 ギブアンドテイク。俺たちの間で釣り合いは取れている。


 ――俺は魔王城の探索も特別に許されていて、五年ほど前だったかに“封印されし時の女神の間”を発見して《女神の砂時計》を手に入れた。女神の封印像を削ることで入手できるその貴重品レアアイテムは使う機会もなくずっとストレージの肥やしになっていたこいつのおかげで死を回避することができた。本当に持っていてよかった。魔王からは「女神の封印が解ける」と言われて禁じられているが、折を見てまた取りに行くとしよう。


 まあなんにせよ俺が魔王を殺すことはないし、魔王も俺を殺さない。互いの利益のために共生関係を築いている。体の相性もまあ、悪くないしな。






「さあ、かかって来るがよい」


 魔王が両手を広げてそう言った。これが合図だ。

 俺と魔王の予定調和。

 魔王が順番にひとりずつ殺していく、いつもの手順。


 簡単なお仕事だ。

 そのはずだったのに――





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