1 勇者は再度出発する。


 宿屋の一階に集まった勇者の一行パーティは俺以外に三人。

 魔法使いのリーティア。

 騎士のエクノス。

 そして治癒術師のサレーヌ。

 全員女だ。


 今回はこのメンバーで魔王に挑むわけだ。

 これまでの俺の経験からすると、彼女たちの実力は過去のメンバーの平均をやや下回る程度。とても魔王を倒せるようなレベルじゃない。


 それでも挑むのはひとえに俺が人類の希望、“不屈の勇者”だからだ。頭数が揃っているのに戦わずにいれば俺の人気・名声が損なわれてしまう。まあ、仲間のレベルが足りていなかろうがから問題ない。と、思っていたが、俺もどうやら死ぬことがあるらしい。《女神の砂時計》を持っていてよかった。


「グレオス、緊張しているのか?」

 

 女騎士のエクノスは俺が押し黙っていることを勘違いしたのか気遣わしげな態度を見せた。剣が取り柄の脳筋のような外見とは裏腹に細やかな性格をした女なのだ。


「いいや。魔王相手にいまさら緊張なんかしないさ。俺が何度魔王城に行ってると思ってんだ?」

「ははは、それは自慢にならんな」

「違いない」

「今日こそ魔王を討ち果たそう」

「そうだな」


 俺は笑って頷きつつ、内心では別の感想を抱いていた。魔王を打倒するなど不可能なのに無邪気なことだ、と。


「勇者様、出発前にわたくしたちを集めてどうなさいましたの? 打合せなら昨夜のうちに済ませましたのに」


 澄ました顔で言うのは治癒術師のサレーヌ。ちまたで聖女だなんだともてはやされてている、いけ好かない女だ。大した実力もないのに「勇者と人気を二分している」との評判だとか。顔がいいのは認めるが。


「んー、まあ気合いを入れようかと思ってな」

「士気発揚のためですの?」

「それと回復アイテムの補充だな」


 部屋の中を数人の荷物持ちポーターが行き来して、全員に回復薬ポーションを配っている。ついでに淹れたてのお茶も。勇者の一行といっても四人ですべてのことをやるわけではない。こうしてこまごまとした冒険のサポートする者も大勢いるのだ。俺たち四人は最前線の実働部隊というだけで、勇者のパーティというのは大所帯なのである。


「わたくしは結構です。持参したものがありますので」

「……まあ、要らないならいいけどな」


 いちいち鼻につく女だ。

 苛立ちを紛らわせるために出された茶を啜る。いい香りだった。もっと落ち着いた気分の時に飲みたかったものだが。


「じゃ、じゃあ準備もできたことだし出発しよっか!」


 魔法使いのリーティアが険悪になった俺たちを取りなすように声をあげた。

 エクノスが頷き、立ち上がった。


「いざ魔王城へ!」

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