1 勇者は再度出発する。
宿屋の一階に集まった勇者の
魔法使いのリーティア。
騎士のエクノス。
そして治癒術師のサレーヌ。
全員女だ。
今回はこのメンバーで魔王に挑むわけだ。
これまでの俺の経験からすると、彼女たちの実力は過去のメンバーの平均をやや下回る程度。とても魔王を倒せるようなレベルじゃない。
それでも挑むのはひとえに俺が人類の希望、“不屈の勇者”だからだ。頭数が揃っているのに戦わずにいれば俺の人気・名声が損なわれてしまう。まあ、仲間のレベルが足りていなかろうが俺が死ぬことはないから問題ない。と、思っていたが、俺もどうやら死ぬことがあるらしい。《女神の砂時計》を持っていてよかった。
「グレオス、緊張しているのか?」
女騎士のエクノスは俺が押し黙っていることを勘違いしたのか気遣わしげな態度を見せた。剣が取り柄の脳筋のような外見とは裏腹に細やかな性格をした女なのだ。
「いいや。魔王相手にいまさら緊張なんかしないさ。俺が何度魔王城に行ってると思ってんだ?」
「ははは、それは自慢にならんな」
「違いない」
「今日こそ魔王を討ち果たそう」
「そうだな」
俺は笑って頷きつつ、内心では別の感想を抱いていた。魔王を打倒するなど不可能なのに無邪気なことだ、と。
「勇者様、出発前にわたくしたちを集めてどうなさいましたの? 打合せなら昨夜のうちに済ませましたのに」
澄ました顔で言うのは治癒術師のサレーヌ。
「んー、まあ気合いを入れようかと思ってな」
「士気発揚のためですの?」
「それと回復アイテムの補充だな」
部屋の中を数人の
「わたくしは結構です。持参したものがありますので」
「……まあ、要らないならいいけどな」
いちいち鼻につく女だ。
苛立ちを紛らわせるために出された茶を啜る。いい香りだった。もっと落ち着いた気分の時に飲みたかったものだが。
「じゃ、じゃあ準備もできたことだし出発しよっか!」
魔法使いのリーティアが険悪になった俺たちを取りなすように声をあげた。
エクノスが頷き、立ち上がった。
「いざ魔王城へ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます