「今、何回目ですか勇者様?」
江田・K
0 勇者は朝をやりなおす。
魔王。
人間の敵たる魔族の王。
人間の勇者は魔王討伐を目指し、何度も魔王の居城へ挑んでいた。勇者のパーティは壊滅を繰り返し、都度メンバーは入れ替わっていた。ただひとりの生き残り、勇者を除いては。
どれほど敗北を重ねても決して諦めない勇者を、人々は尊敬と崇拝の念を込めて“不屈の勇者”と呼んだ――
勇者のパーティは魔王城の最奥で、魔王と対峙していた。
「ようこそ勇者よ」
「久しぶりだな魔王」
「それらが此度の仲間か。女ばかり揃えたものよな。ちと妬ける」
「ほざいてろ」
魔王は女だった。
妖艶な美貌に禍々しい瘴気を纏っている姿はまさしく魔族の王と言えた。
勇者と仲間たちは気圧されたように武器を構える。
「さあ、かかって来るがよい」
魔王の言葉に、全員が弾かれたように動き出す。
――俺たちの戦いはこれからだ!
俺、勇者グレオスは後頭部に鈍器で殴られたような衝撃を受けて目を醒ました。
「っ!?」
魔王は? ――いない。
ここは? ――魔王城じゃない。見知った宿屋の一室だ。それも、ベッドの上。
奇妙な感覚。
「朝からバタバタ元気がいいわね」
俺の隣で欠伸をしているのはパーティメンバーの魔法使いの女だった。名はリーティア。魔法の腕前は確かで、胸もでかい。俺は無言で手を伸ばし露わになっている胸を鷲掴みにした。
「真顔でなにしてんのよ」
「目の前に立派なものがあったら揉まないと失礼だろ」
「やだ。昨日の夜、何回したと思ってるのぉ?」
「覚えてない」
「三回よ。これから四回目ですか、勇者様ぁ。魔王城に挑む前日に頑張り過ぎじゃないのぉ?」
「……前日?」
俺はリーティアの胸を揉む手を止めた。
今、彼女は「魔王城に挑む前日」と言った。
だが、俺の記憶には既に魔王城に攻め入り魔王と対面した光景が刻まれている。
ただその後、どうなったかはまるで覚えていない――
「どうしたの? 顔色悪いわよ」
「あ、ああ……」
俺の曖昧な記憶は魔王と対峙した後で途切れている。
まさか。
俺はあることに思い至り、勇者の特権であるアイテムストレージを確認した。亜空間へ少数のアイテムを格納できる特殊スキル。
「《女神の砂時計》があと四個になってる……だと?」
「え? なぁに?」
「なんでもない」
思わず声に出てしまっていた。
一見するとただの石くれでしかない《女神の砂時計》は
それが四個になっているということは、
…………俺は、死んだのか?
だから女神の砂時計の効果で一日をやりなおしているのか?
俺はどうやって死んだんだ?
殺されたのか?
だとしたら、一体誰に?
俺が殺されるなどありえない。
魔王だって俺を殺せないのに。
俺は“不屈の勇者”なんだぞ。
「リーティア、一階にみんなを集めてくれ」
「りょうか~い」
何者の仕業かわからん以上、十分注意して魔王の元へ行くとしよう。
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