第5話 隊長さんは海が見たい

 この世界、環境汚染の進んだある日、どういう理屈か突然植物が変異しはじめた。

 頑強で成長が早く人の侵入を拒み、挙句に種子で普通車程度は吹っ飛ばすような砲撃をして来るトンデモ植物だ。

 それは田畑の作物だろうが雑草だろうが区別なく変異し、天に屹立する大木に化けていく。

 これらは何処からか始まったのではなく、世界的に同期して始まった。


 人類はその森を焼き払い、切り開いては真面な植物や、一代限りの操作をした作物を植えたりしたが、その努力もあざ笑うように植物は変異していき、更には炎や薬物にすら段々と耐性を持ち始め、ある時から酸素を吐き出すのをやめ、大量に消費して活動を活性する事まで始めた。

 そして、急激に酸素濃度は下がっていき、地下都市やシェルターに逃げ込めた一部の人類以外は死に絶えた。

 ささやかな例外以外、地上に人類は居なくなった。


 このキャンプに居るメンバーは、その例外という事だ。

 特殊な武装、その適応処置を受けた実験体。

 要はあの巨人の姿のお陰で、低酸素濃度を生き残った訳だ。

 それでも巨人の能力が付加されれば、それで良かったという訳でも無かった。

 実の所この基地の編成は、元の状態では男性が主体で数十人は居た部隊だったらしい。

 だが、あの巨人は男性には適合性が低いらしく、女性と比べると機能維持の為の必要カロリーが跳ね上がるそうで、常に巨人状態でいるカロリーを賄えず、男性メンバーは段々と餓死していき、結局女性のメンバーだけが生き残ったそうだ。

 食べているのに餓死するという、恐ろしい環境の中で絶望し、自殺した者も多かったそうだが。

 その後、何の切欠がそうしたのか、植物の光合成は正常化し、今は酸素濃度も戻っているらしい。

 しかし、他の軍施設には連絡はつかず、このキャンプは孤立している。

 地下にある大量の物資と、復旧できたソーラーパネルのお陰で、今まで不便はなかったようだが。


「さて、ブレンダ班集合よー」


 金髪の一見ハリウッド女優に見まがうようなゴージャス美女が、グリグリメガネに電卓装備で、チームメンバーを招集した。

 彼女は、この175号基地所属「ブレンダ班」隊長のブレンダ・ゴールドバンクである。


「あんだよ、スクルージ」


 赤毛短髪ボーイッシュのスカーレット・バトラックが、レモン汁オンリーで味付けしたサラダを、サラダボウルごと抱えながらやって来て、ブレンダの綽名を吐き捨てる。

 また、何かけち臭い事を考えてやがると言わんばかりである。


「レティ、その綽名はやめなさい。 言いたい事は判りますけど」


 銀髪の知性的な印象の女性ことシルビア・ラブレスが、厨房用のアルミ製バットに、乱切りしたフルーツを盛り、コーヒー用のシュガー&ミルクをぶっかけた物をモグモグやりながら現れ、一応はスカーレットの愛称を呼んで窘める物の、その目はブレンダを胡散臭そうに眺めていた。


「………じゅーーー」


 最後に現れたのは、黒髪をボブにして眠そうな目をしたハチェッタ・バーングレイ。

 両手に茶色と紫色のスムージーらしき液体の入った、2リットルサイズのジューサー用ボトルを抱え、ボトルにぶっ刺した極太ストローを無言で啜っていた。


「あのー」


 私は元より此処に居たんだが、バラエティ豊かすぎる面々の濃さに比べると、居ないも同然か。

 しかし……いい加減、拘束緩めてくれないだろうか。

 そろそろ辛いんですが。

 あと、皆さん食いすぎじゃあないかな?

 確かに凄いプロポーションしてるけど。


「おい、オッサン。 バクバク食って太ると思ってんだろ。

 SETA使うにゃ、本人のカロリーがいんだよ。

 チョットデブったくらいじゃ、森で暴れたら胸とケツしか肉は残んねーよ」

「いや、別にそんな事は……」


 そんな理由で、皆さん凄いプロポーションしてんの?

 因みにSETAは巨人の俗称で「共生型拡張戦術装甲」の英語頭文字を取ってるそうです。

 シンビオテクス=エクスパンション=タクティカル=アーマーだったか?


「はい、注目して頂戴!!」


 ブレンダ隊長が眼鏡をくいっとしながら再度声を掛けた。


「何をやるってんだよ」


 レティさんが面倒くさそうに言うが、やらないとは言わない辺り、無駄な事はしないと信用されているのか。


「いいこと!! 私はお魚が食べたいの!!」

「はぁ?」

「……あの泥臭いのは好きじゃない」

「あー、そういう事ですか」


 ブレンダ隊長が拳を振り上げ、レティさんがとうとうイカレたかと云うような眼で眺め、ハチェッタさんが嫌そうな顔をし、シルヴィアさんが私を見て何やら納得していた。


「ミスタータイラーがいれば、近隣基地調査の為の道が開けるわ!!

 そして、その先は海なのよー!!」

「調査はついでかよ」

「確かに活動範囲は広がりますね」

「海の魚は臭くない?」

「川魚ほど泥臭くはないでしょうけど。 汚染とか大丈夫なんです?」


 思わず口を挟んでしまったが、そこんとこどうなのか。

 連れていかれる私は、普通の生身なんですが。


「少なくとも、一番酷かった時期でも食用になってたわー」


 ブレンダ隊長がサムズアップ。

 魚に飢えてるのね、外人さんは肉が食いたいのかと思ってたけど。


「まあ、閉じ込められてんのも退屈だからよ。

 他所を覗きに行くってのはいいぜ」

「美味しいなら構わない」

「いや、調査が先でしょう」

「なら、決定ねー。

 シルビア、周辺基地へのルートと優先順位をよろしく。

 レティ、ミスタータイラーを連れて動ける、時間当たりの移動距離を確認してね。

 ハチェッタ、暫くは私と雑草抜き専任よー」


 こうして、会議は終わった。

 私は、まだ解放されない。





175号基地哨戒班「ブレンダ班」

SETA能力者で編成された部隊の中では、軽量タイプが集められた哨戒・索敵が主任務の小隊で、戦闘部隊ではなかった。

男性陣のカロリーが重かったのは、純戦闘型だったせいでもある。


 隊長

 金ロング眼鏡

 ブレンダ・ゴールドバンク

あだ名の「スクルージ」は、「クリスマス・キャロル」で、3人の時の精霊に出会う、金貸し爺さんの名前。

 少々悲観論者の為、物資の分配量等で余裕を見過ぎて、いちいちケチ臭いとスカーレットにつけられた。

 視力は矯正済みだが、眼鏡で気合が入るらしい。

「悪い子は出荷よー」


 前衛

 短髪赤毛

 スカーレット・バトラック

 相性レティはブレンダにつけられた。

 最初は嫌がってたが、今では慣れた。

「しょうがねーな」


 前衛・工作

 黒髪ボブ

 ハチェッタ・バーングレイ

 いつも眠そうで寡黙。

 実の所、眠ったまま終われるなら、それが楽だなーとか考える位には、一番SAN値がヤバイ状態。

「美味しくない……」


 医療&バックアップ

 銀髪姫カット

 シルビア・ラブレス

 このサプライズで、一番テンションが上がってる。

「このメガネは伊達よ」

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